想像よりもずっとずっと短い余命にショックを受けたが、もう一瞬たりとも時間を無駄にしたくなかった。

俺はその日必死で駆けずり回った。りかちゃんの両親に無理矢理アポイントを取って挨拶と共に事情を話し、結婚することを告げた。必要書類をかき集め、なんとかその日の内に婚姻届を提出した。そして、しばらく休むと連絡していた職場に出向いて退職届も提出してきた。

俺は残りの時間の全てを、りかちゃんを笑顔にするために使うと決めたんだ。

俺とりかちゃんは、まるで夢のような楽しい時間を過ごした。

そして楽しい時間はあっという間に終わってしまう。

きっと、つらかったはずだし、苦しかったはずだし、凄く痛かったはずだし、怖くないわけがなかった。

でもりかちゃんは、最後まで俺に幸せそうな笑顔を贈ってくれた。

ほわほわとした幸せそうな笑顔。俺はりかちゃんのその笑顔が大好きだった。

ふとした時にりかちゃんの口からこぼれる「大好き」って言葉が、嬉しくて幸せで、俺だって大好きだっていつも思ってた。

りかちゃんは凄腕の心臓外科医で、10歳も年上だったけど、俺にとってはただひたすらかわいらしい女の子で、まるで子供のような人だった。

りかちゃんみたいな人なんて、この世のどこを探したって、見つかりっこなかった。俺がりかちゃんをいつまでも引きずってしまうのは、当然のことだった。

仕事に復帰した俺は、前みたいに頑張る必要も特になくて、適当に仕事をしていた。

皮肉なもので、そんな俺の様子が世の女性達にばかうけして、メディアで取り上げられた結果、なかなか予約の取れないカリスマ整体師などと言われるようになってしまった。

あほかと思った。

俺が引けば引くほど女達がキャーキャー言うのだから勘弁して欲しい。もはや淡々と仕事をこなすしかなかった。

あの頃の俺は、整体師ではなく、ホストみたいなものだった。

しばらくすると空前の俺ブームは落ち着いたが、根強いファンが固定客として残り、その客を消化する日々が続いた。

どう考えても普通じゃなかったこの状態を放置するべきではなかったのに、全てが面倒になっていた俺にはその判断ができず、オーナーに言われるまま適当に働き続けていた。

りかちゃんがいなくなって10年が過ぎた頃、俺はストーカーと化した客のひとりに刺され、あっけなくこの世を去ることとなった。