オープンカーを購入し、ふたりでちょっとお洒落をして、彼のおすすめの曲を大音量で聴きながら、海を目指した。

新婚旅行のつもりで行った温泉にはまってしまい、近場の温泉を制覇した。

オーケストラの演奏を生で聴いてみたくて一度行ったら、もの凄く感動して、それに味をしめた彼は、オペラや歌舞伎、ミュージカル、有名な劇団の舞台のチケットを、次から次に用意して私を連れて行ってくれた。

段々体がしんどくなってきて、家でのんびりと過ごすようになった。

これまで読んだことなかった漫画にはまり、彼のおすすめを片っ端から読ませてもらった。

夜には部屋を暗くして、ポップコーンを用意して、彼が好きだという映画を毎晩ひとつずつ観た。

アニメもドラマもいっぱい観て、お笑い番組もたくさん観て、まだまだ彼のおすすめは残っていたけど、残念ながらタイムオーバーとなった。

そこからは彼とふたりきりの時間。じっくりとゆっくりと、話をした。

「りょうちゃんは、楽しいことのスペシャリストだね。私にいっぱい楽しいを教えてくれた。凄く楽しかった。私は凄く幸せ者だね」

イケメンが優しい笑顔を私に向けている。

「俺の引き出しはこんなもんじゃないよ?もっと楽しいこと、俺がいっぱい教えてあげるからね」

うん、そうだね、楽しみだ。

「りょうちゃんとずっと一緒にいたいなあ」

、、、、。

次に目覚めた時、私は既に森の中にいた。

そこから続く孤独の10年を支えたのは、彼が私に教えてくれたたくさんの『楽しい』だった。

「りかちゃん、大丈夫?俺がそばにいるからね」

つらくて自分を見失いそうになった時は、いつも彼の声が聞こえた気がする。

彼にも私の声が聞こえているだろうか?

そう考えて、私は彼の話を聞くばかりで、自分が話をすることは少なかったことを思い出した。

私は、彼に何かしてあげられたのだろうか。もらうばかりで私からは何もあげられなかったと、今更悔いが残る。

「りょうちゃん、元気にしてるかなあ」

レオ様とジョニデに簡単過ぎる自己紹介をしたあと、昔のことを懐かしく思い出し、ふとそんなことを呟いてしまった。

そういえば、死にそうになっていた私にせっせとご飯を運んでくれたサルは、キャラが彼と被っている。だからきっと、私はサルが大好きなんだな。

寂しげな表情を見せた私を心配して近づいてきたサルを捕まえ、いつものようにぎゅうぎゅうしてやった。

「サルとは絶対に離れない。ずっと一緒にいるからね。大好きだよ」