余命半年。

動ける時間はそれよりも短いのだ。

たった半年の結婚に、なんの意味があるのか。

結婚しようがしまいが、彼が私のそばを離れることはないだろうし、私も離れて欲しいとは思えない。

でもその半年には必ずもしもの時が含まれていて、結婚しなければ、彼は私のそばにいられなくなってしまうのだ。

かっこよく彼の前から姿を消して人知れずそっといなくなるなんて、小説の中の人みたいなこと、私にはできない。

だったら、残された時間が少ない私は、今すぐ彼に病気のことを話さなくてはいけないのに、それができないでいる。

ここ数日の私の様子や病院のスタッフの様子から、既に色々察している彼が私の手を取った。

彼の目にも涙が浮かんでいる。

「りかちゃん、俺はこんなんだから凄く頼りないのかもしれないけど、こう見えても30過ぎてるし、外では立派に大人としてやってるんだ。俺はもう大分前からりかちゃんを一生守るって覚悟を決めてて、この指輪だってずっと前から準備してたんだよ」

いつになく真剣な彼に、言葉を飲み込んだ。

「りかちゃんがつらい時にそばにいられないなんて、そんな情けなくて寂しい思いを、君は俺にさせるつもりなの?りかちゃん、お願いだから、俺のお嫁さんになってよ」

そう言ってボロボロ涙をこぼす彼は、とても30歳には見えないし、十分頼りなく見える。

でもそんな彼が私は大好きで、離れたくなくて。本当はもの凄く頼りになることを私は十分過ぎるほど知っているのだ。

その日、私は病気のことと余命のことを彼に話し、ふたりで大泣きしたあと、結婚した。

その後速やかに引き継ぎを済ませ、私は病院を辞めた。

何故か彼も仕事を辞めてきた。

「ん?前に話したでしょ?俺の仕事はバイトみたいなもんだし、俺は資格持ちだから、仕事は意外と簡単に見つかるんだって」

そう言って笑う彼は、昔と変わらず眩しいほどにイケメンだ。

私達は残された時間で精一杯楽しいことをした。