王子に字を習うというので、こうなることはある程度予想していた。

稀に出現する転生者のほとんどは、前世の記憶を持っているというだけで、我々となんら変わらない。

だが過去に、大きな力を持って突然現れ、戦争を起こして大きな被害をもたらした者がいたため、転生者に悪いイメージを持つ者も多いのだ。

聖女は転生者であることを隠したがっているのだと思っていたが、王子の話からすると、そうでもないのかもしれない。

今朝の水を使った魔法の訓練も、驚くほどの集中力だった。あの調子なら、すぐに魔力量の操作を覚えてしまうだろう。

子供らしからぬその振る舞いに意図は感じられないが、私や王子と過ごす時間が長過ぎて、自分が子供の姿であることを忘れているのだろうか。

それにしても、王子が聖女についての報告を一部差し控えてくれると約束してくれたこと、本当にありがたい。あの王子の様子なら、信頼しても問題ないだろう。いっそ全てを話して協力を仰ぐのもありかもしれない。

そんな風に考えていたのだが、翌日の朝食の席で、考えを改めた。

何を考えてるのかまるでわからない、信頼なんてできやしないと。

「聖女は転生者なのか?」

その表情はいつになく厳しい。

聖女の部屋で3人だけで食事をしていたとはいえ、突然過ぎて食事を喉に詰まらせた。王子はこれが聞きたくて部屋で食事をしようと言い出したのか。

デリケートな話なので聖女のタイミングで話せればと思っていたのだが、台無しだ。

聖女はひきつった表情で固まり、目を泳がしている。しばらくして、観念したのか、

「どうも、前園梨花子(まえぞのりかこ)、転生者です。出身は日本。医者をしてました」

と、自己紹介をした。