俺の誘いは断ったくせに、どうして教皇と買い物に行くんだ!なんか腹立つな。絶対に俺もついて行くぞ。

そんなイライラした気持ちは、食事のあとで、俺が買ってきた服に着替えたかわいい聖女を見て吹っ飛んだ。うんうん、凄くいい、やはり聖女はかわいいな。

本屋に着いて字が読めないと気づいた聖女は、教皇が選んだ魔法の教科書と一緒に子供用の絵本を数冊購入した。

「ジョニデ、字も教えてくれる?」

と教皇にお願いしている聖女に

「魔法を教皇に習うなら、字は俺に習えばいい」

と、強引にその役をかって出た。

宿に戻って早速勉強をしたいという聖女には驚いたが、言ったからにはちゃんと教えなければなるまい。

正直、もの凄く驚いた。

勉強を始めてすぐ、聖女が普通じゃないことに気づいた。

聖女が絵本の文字を書き写し、それを俺に読ませ、何やら知らない文字をその下に書き込む。その作業を、購入した絵本全部で繰り返す。

それがようやく終わると、次はそれを使って、何やらブツブツ呟きながら、別の紙に単語を拾って書いていく。首を捻って考えて、あっ!と何かを思いついたのか、俺に紙を渡す。

「単語じゃなくて、文字を覚えたいんだけど、全部書いてもらってもいい?」

その後魔法の教科書も少し読んで聞かせた。

「さすがに教科書は難しそう、読んでもらえて助かる。レオ様ありがとう!また明日もお願いしていい?」

と言って、部屋に戻って行った。

聖女は本当に、子供なんだろうか?

教皇にさっきの聖女の様子を話し、俺の中に浮かんだ疑問をぶつける。

「聖女は、もしかして転生者なんですか?」

教皇が苦笑しながら頷いた。

「転生に関しては様々な解釈があるのでこれは極秘扱いなんですが、これまでの聖女も前世の記憶を持った転生者でした。今の聖女もおそらく転生者ですが、本人に確認したわけではないので、確かではありません。王子が王国の方であるのは重々承知してますが、できることなら、この件を王子の中でとどめて頂きたいのです」

そう言って、教皇が頭を下げる。

確かに、聖女が転生者だとわかり、何か問題があれば、王国はそれを攻撃材料にするかもしれない。転生者は特殊な能力を持っていることも多いため、その能力によっては聖女を利用することも考えられる。

そもそも王国は、転生云々に関わらず、聖女の魔力をあてにしてる可能性に思いあたった。王国が『早く聖女を連れ戻せ』と催促してくるようになったのは、聖女があの癒しの大魔法を放ってからなのだ。

教皇はその可能性に既に気づいていて、王国が聖女に更なる関心を持たぬよう、こうして俺に口止めを願っているのだろう。

あの聖女が王国の思い通りになるとも思えないが、教皇の懸念も理解できる。長きに渡って神殿のトップに君臨していた先代の聖女と違い、まだ子供の聖女はいかようにもできる。王国のその考えはあまりにも明け透けで、今までそれに気づけなかった自分を恥じた。

聖女の魔力は確かに凄いが、それをどう使うかを決めるのは、王国でも神殿でもなく、聖女自身であるべきだ。

「わかりました。転生のこと、それに聖女の魔力のことも、今後王国への報告は差し控えます」

そう言って、俺は教皇の部屋をあとにした。