「格差社会、ダメ、絶対」

などと言いながら、聖女は護衛や従者にその『消臭リッキー』とやらの魔法を順番にかけていった。

「まだ力加減が難しいな」

とブツブツ言いながら、せっかくだからと私と王子にもその魔法をかけてくれる。なかなかな量の魔力が体を通り抜けるのを感じた。大丈夫なのだろうか。

案の定、聖女はその後間もなく、意識を手放した。

「何をやってるんだ。この聖女は、馬鹿なのか?」

その言葉に反応したサルが、王子に何かを投げつけた。

「イテッ!なんだよ、このサル!あああ!もおお!」

王子が明らかに怒りを溜め込んでいる。

サルは昨日、聖女を背負っていた王子に何かと嫌がらせをしていた。なのに護衛には何もしない。そのことにも王子はだいぶイラついているようで、

「このサル、絶対俺のこと舐めていやがる。本当むかつく」

と、ブツブツ文句を言い続けた。

魔力を使い過ぎた聖女は森を抜けるまで眠り続けた。

王子と護衛達が交代で寝てる聖女を運んだのだが、王子が聖女を背負う度に、サルは王子への攻撃を繰り返した。

サルの攻撃がそんなに嫌なら、聖女を背負わなければいいものを、王子はサルの攻撃を受け続けた。

そして遂には、

「お前、妬いてるんだな?悔しかったら聖女をおぶってみろよ!サルには無理だよなぁ?ざまぁみろ!」

などと、サルを挑発し始めた。

間違ってはいないと思うが、相手はサルである。王子の印象が、この旅でだいぶ変わった気がする。

サルと王子の攻防はさておき。

私は聖女の魔法に驚愕していた。

聖女は護衛の臭いが気になるという理由で試行錯誤したあと、あの『消臭リッキー』を編み出したのだ。

あれはおそらく浄化魔法で、体と衣服の汚れが完全に浄化されており、それに伴って臭いが消えたのだろう。

先代の聖女は癒しの魔力の使い手であった。過去にあった戦争の際に、必要に迫られて使えるようになったと聞いている。

聖女の魔法もそのどれもが過酷な環境の中で必要に迫られて出現し、制御はできずとも、無意識に発動させていたものだと思われる。

浄化の出現も必要に迫られたものであろう。出会った時の聖女が至って清潔だったことがその証明だ。

無意識で発動される魔力と、意図的に体外へ放出し他者へと行使する魔力では、その制御の難しさがまるで違うのだ。

だからこそ、聖女がサルを癒すために初めて癒しの魔力を放出した際、奇跡の大魔法となってしまったのだろう。

聖女が魔力を操作しようとして長時間四苦八苦しているのをずっと感じていた。

聖女は、魔力量の制御はできていないものの、意図的な魔力操作を間違いなく会得している。今回は失敗しているが、魔力量の操作も意識しているようだった。

まだ11歳、しかも独学でこのレベルに達しているとは、驚きを隠せない。

王国に戻って制御の仕方を正しく訓練すれば、間違いなく大魔法使いとなるだろう。

聖女が癒しの魔法を使えることはあの奇跡が証明しており、王国は魔法の師を待機させ、聖女の帰りを手ぐすねを引いて待っている。

このままでは、聖女が王国に兵器として扱われる未来が待っているのではないか?

王子の背中でスヤスヤ眠る幼い聖女の行く末を案じ、私は静かにため息をついた。