城を離れてもうすぐ1年経つが、特に寂しさは感じない。

あそこに俺の家族はいないも同然だ。母ですら、トラブルに巻き込まれるのを恐れて俺に近付こうとしないのだから、呆れてしまう。

王国を離れて暮らしたこの1年は決して楽ではなかったが、振り返るとそう悪くもなかったように思える。

最近、真剣に王籍からの離脱を検討してもいいかもしれないと考えるようになっていた。王子という地位に就いたまま飼い殺されるくらいなら、いっそ王籍を離脱した上で軍に所属した方が、王国のためになるのではないか。

幼い頃は、兄である王太子をわきで支えられるようになりたいと、本気で考えていた。残念ながら、俺が兄のためにと努力した結果は、全てが裏目に出てしまったらしい。

馬鹿な俺は、いまだにその気持ちを捨てきれないでいるのだから、たちが悪い。困ったことに、俺は兄のことを嫌いになれないのだ。

兄の母である王妃は、俺と兄がまだ本当に小さかった頃から、何かと俺にきつくあたってきた。

兄はその度に俺を慰め、謝り、そして優しくしてくれた。俺と比べられ、俺に劣る度に、兄も同じく王妃にあたられていたのも知っている。

聖女の捜索に加わるように言われた時も、兄は昔と変わらず、俺に

「母がすまない」

と謝ってきた。

兄は本当に優しい人だ。

俺は兄に王の資質がないとは思っていない。兄に足りない部分は、俺が補えばいいと、今も本気で思っている。

俺が王籍を離脱すると言ったら、兄はどう思うだろうか。

この先のことは追々考えよう。

今は聖女が目覚めたらどうするか、それが問題だ。そもそも、聖女はいつ頃目覚めるのか、それも問題だ。

先日送った報告書の返事がそろそろ来る頃だが、どうせまた「寝たまま連れて来い」と書かれているのだろう。

こんなあほらしいやり取りなんて放棄してしまいたいが、そうもいかない。焦る気持ちはないが、とにかく報告書の作成が面倒だ。

俺も長い眠りにつきたい気分だ。でもここの簡易ベッドではとても無理だろう。熱いシャワーとふかふかのベッドが恋しい。