あれから1ヵ月、聖女は長い長い眠りの中に今もいる。

あっけなく俺達を許そうとした聖女より、大泣きしてその後疲れて何日も眠り続ける聖女の方が安心する。必要ならば何度でも同じことを繰り返そう。

そんなことを考えていたら、俺の前を聖女のサルが通り過ぎた。

どこから採ってきたのか、腕にはたくさんの果物が抱えられている。サルは聖女が寝ている間、器用に果物の皮を剥き、その果汁を搾って、聖女の口に流し込んでいた。

サルは聖女が長い睡眠に入る度にこうして栄養を与え続け、成長が止まるのを防いでいたのだろう。道理で半年で30センチも身長が伸びるわけだ。

聖女の口の周りをペロペロ舐めるサルを見て「うわあ」という顔をしていたら、サルが果物の種を俺に向かって投げてきやがった。

「こいつめ!何しやがる!」

種のひとつをキャッチして、サルに投げ返すと、サッと避けられ、聖女の枕元に置いてある花瓶を倒して割ってしまった。

これはまずい、完全にしくじった。

何事かと様子を見に来た教皇が、呆れ顔で

「またですか?ちゃんと片して下さいよ?」

とだけ言い残して去っていく。

振り返ると、どや顔のサルが目に入った。なんだこのサル、本当ムカつくな。

煽ってくるサルを無視して割れた花瓶を片付け、新しいものに花を差して聖女の枕元に置いた。

そのまま、まだあどけない聖女の寝顔を見つめる。

あの夜に聖女が見せた、全てを諦めているかのような悲しい笑顔を思い出し、胸が痛んだ。

まだ子供の聖女が、あんな表情をするなんて、、

城にいる腹違いの妹姫は、確か聖女より5歳は年が上のはずだが、もっと幼く、ワガママばかり言って周りを困らせていたと記憶している。

あれが普通だとは思わないが、聖女もかなり普通とは違うだろう。

「聖女のワガママなら聞いてやりたいがなぁ」

花瓶の花を弄りながら独り言を呟いた。