「生まれたての赤ちゃんって感じだったから寝返りもうてなくてさ、本当まいったよね」

茶化したように話す聖女が、無理をしてるのは明らかだった。

「でもね、魔法でどこも痛くなかったし、お腹も減らないし、寒くもなくて、結界があったから動物とかで恐い思いをすることもなかったの。それに、かなりの時間を寝て過ごしてたみたいで、夢と現実の境もアヤフヤで、サルが現れた時はまだ1年経ってないと思ったくらいだったしね」

そう言って聖女は、エヘヘと笑ってみせた。

想像していた10年とあまりにもかけ離れた内容に、俺は愕然とした。

サルが現れるまでずっと赤ん坊で、動くことすらできなかったなんて、、この少女は、そんな酷い目にあっていたにも関わらず、それでもまだ他人を気遣って笑うというのか?

俺は怒りで震えていた。

俺達を責めようとしない聖女に対してなのか。

聖女を召喚して意図せず森に放置した教皇に対してなのか。

何もできない己に対してなのか。

きっとその全てなのだろう。

気づけば、俺の目から、涙がこぼれて落ちていた。聖女の10年間を思って、泣かずにはいられなかった。

「本当に、本当に、申し訳ありませんでした」

教皇も謝罪の言葉を繰り返し、声をあげて泣いている。

そんな俺達に困ったような顔をして、それでも笑おうとする聖女のそばまで行き、跪いて手を取った。

戸惑った表情の聖女を思い切り引き寄せ、強く抱きしめる。

「俺達だけじゃ寂しいから、聖女も一緒に泣いて下さい」

間もなく、俺の心臓の辺りから、聖女の嗚咽が漏れ出した。

一体どれくらいの間泣いていただろうか。聖女はいつの間にか、俺の腕の中で、スヤスヤと眠りについていた。