「やはりここでの10年間は並大抵ではなかったんだな。あのまま行かせて大丈夫だろうか?」

聖女の背中を見送りながら、王子が心配そうに呟いた。

結局今日も聖女から話を聞くことができなかったというのに、こうして一番に聖女の心配をしてくれる王子をありがたいと思った。

11年前に聖女が神殿に現れなかった時から、ことあるごとに脳裏をよぎった最悪の可能性。

それは、赤ん坊の聖女が、誰にも気づかれずに、誰の助けも得られずに、永遠にひとりの時を過ごしている、というものだった。

そんなわけがない。もしそうならすぐに命が尽きるはず。生きているのだから、きっとどこかで笑って暮らしているはずだ。

そう自分に言い聞かせ、私はその最悪の可能性から目を背け続けてきたのだ。

聖女発見の知らせを受け、聖女の情報が耳に入る度に、目を背け続けてきた最悪の可能性が、現実味を帯びてくることに恐怖した。

そして聖女が最悪の状態で10年間を過ごしていたことが明らかになった時、自分の罪を受け入れ、残りの人生をその贖罪にあてる覚悟をした。

しかし私は、この期に及んで、自分の罪が聖女に知れることを恐れていたのだ。

聖女との対話を謝罪から始めた王子は、人として素晴らしく、まさに人間の鑑となる人物であろう。

それに引き替え私は、少しでも長く聖女との穏やかな時間が続いて欲しいと望んでしまったのだ。

私の告白を聞いた聖女は、呪いの魔力を色濃くした。

改めて自分の罪の重さを思い知った瞬間であった。