聖女のことを想いながら祈り続ける平穏な日々が続いていた。

神殿にいた時に感じていた煩わしさから全て解放され、聖職者本来のあるべき姿になれたと言えるだろう。

問題が山積みだったあの状態を投げ出して、部下に教皇代理を押し付けて来てしまったことは、本当に申し訳ないと思っているし反省もしている。だが、私は今、震えるほどの幸せを感じているのだ。

相変わらず聖女は姿を現さないが、稀に魔力を感じることがある。それは極僅かなもので、聖女のそばにいなければ感じることはできなかっただろう。

この10年、私は聖女の無事を願って、祈り続けてきた。

だからこそ、この結界のすぐ内側で聖女の魔力を感じられるということは、私にとってこの上ない歓びだった。

聖女がそれを望むなら、このままこの結界の中で生活を続けても、別に構わないのではないかとすら考え始めている。

聖職者の修行の場として、このそばに極々小さな神殿を設けてもいいだろうか。教皇を辞して、そこで管理者をさせてもらえたらありがたい。

迷子になって王子達に迷惑をかけないよう、結界に沿って森を散策しながら、そんな想像に胸を膨らませていた。

気づけばいつもよりだいぶ遠くまで来てしまったようで、そろそろ戻るか迷っていた時、ずっと左手に感じていた結界が突然消えた。

聖女に何かあったのか?と慌てたが、なんてことはない、結界に穴が開いているだけだった。

その後、野営地点に戻った私は、ひとり悩んでいた。

私がここに到着して3ヵ月。当初、疲れ果てた様子の王子は、心身共にボロボロだった。教皇の私は、万策尽きた王子にとって、一縷の希望となるはずの存在だったのだろう。

しかし私は、教皇の職務を放棄して、ただ聖女のために祈り続けるという、己の幸せの追及ともいえる行為に邁進していた。そしてその様子に王子が落胆を隠すことはなく、祈り続ける私に物言いたげではあったが、私は決して行動を変えなかった。

そしていつしか、王子は肩の力を抜き、考えることをやめ、全てを受け入れ、最近やっとまともな顔をするようになったのだ。