時間が経つのは、遅いようで早い。あの戦争からもう1年が経とうとしていた。

レオ様の迎えはいまだなく、それどころか、彼はいつの間にかトレドミレジア王国の王に即位していたらしい。もうすぐ戴冠式が行われるそうだ。

「王様か、、」

前世の感覚だともはや雲の上の存在だ。一緒に旅をしていたのが遠い昔の出来事のような気がする。

「ん?何か言いましたか?」

少し離れた場所にいたあきら君が私の呟きに反応したので、なんでもないと首を振ってこたえると作業に戻った。

私の読み通り、オタクだったあきら君は、中学時代に魔法陣を書く練習をしていた。かなり本格的な魔法陣ではあったけどあくまで空想の産物。それをなんとか実用化できるように試行錯誤して実験を繰り返し、結果的に魔法陣を利用した魔道具を完成させた。

魔法陣を使うことで、魔力を増幅させたり、より細かい効果を作り出すことが可能となり、今は転移装置の実験中である。

魔法陣から魔法陣への物質の転移を成功させ、距離や物質の大きさの変化で必要な魔力量がどう変わるかを調べるため、実験場所を室内から屋外に移したのだ。

そろそろ人間の転移も可能か試したいのに、ジョニデの許可がおりない。ジョニデは相変わらず私を信用していないらしく、私が魔法陣に乗らないよう、いつもそばに張り付いていた。

「ねえジョニデ。王様と聖女は、どっちが偉いとかあるの?」

「私にとっては唯一無二の聖女が至高の存在ですが、人それぞれ立場が違えば捉え方は変わると思います」

「マッチョにとっては王様の方が偉いってことか」

「はい。世界中に信者のいる聖女を王国が脅威と捉えていたのはそのせいですね」

「あーそれで王国と神殿は仲が悪かったのか」

「ですが、それを先導していたラグランジュ公がいなくなり、レオンティウス様が王となられたので、王国と神殿の関係も変わるでしょう」

「、、王様は、、忙しいよね」

「、、そうですね」

ジョニデは何か言いたげだったけど、それを飲み込んだ。

「、、本当は教皇も忙しいんでしょ?」

どうにも居心地が悪くて、話題を変えることにした。

「ああ、それならもう退位したので大丈夫です。代理を任せた者がそのまま教皇に即位し、私は聖女の相談役としてこれまで通りそばで仕えさせて頂きます」

「まじか」

「まじです」

「、、ジョニデはそれで良かったの?」

「はい、私がそれを望んだので」

「そっか、ジョニデはずっとそばにいてくれるのか」

「はい。聖女は放っておくとすぐに無茶をするので、見張りが必要ですからね」

現在進行形で絶賛見張られ中なことを思えば多少の不自由さを感じるものの、存外、不快ではない。

「ジョニデ、ありがとう」

「どういたしまして」

そう言ってジョニデが優しい笑顔を向けるから、うっかり泣きそうになった。

ああ、私、だいぶ弱ってるなあ。