戦場へ行ったはずの梨花子さんと教皇が、ほんの数日で戻ってきた。

梨花子さんが眠る部屋には結界が張られ入室できず、教皇も姿を現さなかったため、話を聞くこともできない。

翌々日、クラピソンを占拠していた敵国の貴族が拘束され、戦争が終息に向かっているという情報が出回った。

良かった。戻ったふたりの様子がおかしくて不安だったが、あとは結界に閉じ込められているであろうサルの安否を祈るのみだ。

結局梨花子さんは3日間眠り続け、干からびかけたサルは目覚めた梨花子さんに魔法で回復されたあと、無事解放された。

聞けば教皇も眠り続けていたそうで、詳しいことはわからないが、戦争を止めるのは生半可なことではなかったのだろう。

王国が主導となって戦後の話し合いが進められているようで、梨花子さんが目覚めてしばらく経った頃、教皇がその後の経過を軽く話してくれた。

「ラグランジュ公は混乱してまともに話せる状態ではないようです。彼に一体何をしたんですか?」

「いや、別に。ちょっと幻覚を見せてびびらせようと思ったんだけど、あのじいさん、性根が腐ってるようだったから、少しばかりおしおきをね、、?」

「おしおき、、ですか」

「頭の中に大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)っていう不安や恐怖とかの情動的な痛みの情報を司る場所があるんだけど、そこをちょっと刺激しただけだよ」

ああそういえば、梨花子さんは前世で医者をしていたんだったな。

「自分が起こした戦争の犠牲者達が感じたであろう苦痛が自身に跳ね返ってくると脳に錯覚させたの。あれは彼自身の想像力が作り出した痛みなんだよ」

「それであんなに、、ですがいまだに痛みを訴えているようですよ?痛みはいつまで続くのですか?少しやり過ぎでは?」

「うーん、痛みの強さや長さは本人次第だからなー。でも大丈夫、脳は優秀だから時期に慣れて、痛みは徐々に鈍くなるはずだから」

「そういう問題では、、まあ、でも確かに、彼がした事を思えば、、いやしかし、、」

よくわからないが、相当強めなおしおきだったのだろう。その貴族が今後どうなるのかは知らないが、少なくとも戦争は無事終わったのだ。

「そういえば!あのじいさん、狙いはあきら君だったみたいだよ!」

「え?俺?なんで?」

「あきら君の力で世界を統一して大帝国を築き上げ、皇帝になろうとしてたっぽい?」

なんだそれ、絶対関わりたくないやつだ。