「ラグランジュをぶっ潰しに行こう」

聖女がそう言って向かった先は、ランブランによって占拠された街クラピソンだ。

探知魔法を使って人気のない場所を選んで転移し、幻惑の魔法で姿をくらます。

魔力探知されることがないよう、結界を施した上で、完全に魔力を制御しつつ魔法を使う聖女に驚いた。遠方への正確な探知や幻惑もさることながら、一体いつの間に魔力制御を身につけたのか。改めて聖女が味方であることに安堵した。

しばらく様子を伺って街の端にある教会に住民が集められていると判断した聖女は、結界を大きく拡げて教会を覆い、昏睡の魔法を放った。

そして見張りをひとまとめにして結界に閉じ込め、住民を覚醒させる。

簡単に事情を説明したあと、ダニエリオが以前住んでいた村サモリへ異空間を繋げ、人質となっていた住民全ての避難を完了した。

人質がいなければあとは王国軍に任せればいいだろうと考えていたのだが、聖女がそれに反対した。

「軍に任せると例えそれが兵士でもまた犠牲者が出るじゃん。それに私の一番の目的はラグランジュをぶっ潰すことだよ。戦争を起こす気力が萎えるまで、徹底的に叩きのめしてやる、、」

もはや身を案じる必要はないと思うが、本当に聖女に任せていいのだろうか。聖女が聖女らしからぬ悪い顔をしている。

「血を流すつもりはないから安心して?」

聖女の笑顔が恐過ぎる。いや、言葉の選択も少しおかしい、、段々麻痺してきている己を叱咤する。

「、、わかりました。ですが体力と魔動力を完全に回復させてからにして下さい。それだけは絶対に譲りませんよ?」

数日後、私と聖女は、再びクラピソンに来ていた。

街全体に結界を張り、昏睡の魔法を放つ。前回よりも強めにかけているようだ。これでは放置するとこのまま餓死しかねない。あとで軍に回収を依頼しなければ。

街で一番立派な建物の二階で、目的のラグランジュ公を発見した。外の兵士と同様に、ソファーに腰掛けた状態で意識を失っている。

「この人で間違いない?」

「はい。面識があるので間違いありません」

「少しうなされるかもしれないけど大丈夫だから、あまり気にしないでね?」

聖女は一体何をするつもりなのだろうか。いくら尋ねても『大丈夫だから』と教えてくれない。

しばらくすると、ラグランジュ公がうなされ始めた。聖女は稀に厳しい顔をしていたものの、変わらぬ様子で魔力を放出し続けている。

だが突然、聖女が不穏なオーラで包まれ、ラグランジュ公がもがき苦しみ始めた。

呪いか!?、、いや、似ているが微妙に違う?どうする?止めるべきだろうか?

「こんなもんかな?」

迷っている間に聖女が魔力の放出を終えたが、ラグランジュ公はいまだ苦しみ続けている。

「このまま放置して大丈夫なんですか?」

「うん。このまま王国軍のとこに行って回収をお願いしよっか?」