狙っていた獲物が自ら罠にかかりにきたとは、やはり運がこちらに向いてきたのだろう。急ぎ捕獲の準備をするよう指示を出し、久し振りに寛いだ気分で茶を啜る。

当初の予定では、王となったアレクシウスを影で操り、王国の力で世界を統一するつもりだった。

だが、転生者はまだほんの子供。その力のみをうまく利用すれば、世界を統一し大帝国を築き上げ、私が初代皇帝となるのも、決して夢物語ではないだろう。

あのアウグストゥスさえなれなかった皇帝の座に、この私がつくのだ。

「ああ、気分がいいな。少し酒でも飲みたいが、、」

さすがに日が高い内から飲み始めるのはまずいかと窓の方を見ると、外が異様に暗くなっていることに気が付いた。

嵐でも来るのか?と思った瞬間、轟音が鳴り響いた。

バキバキバキバキッ!!!
ドドーン!!!ドッゴーン!!!

雷か!?凄まじい衝撃で、建物がビリビリと震動している。すぐそばに落ちたのだろうか?

慌てて窓の外を見下ろすと、驚愕の光景が広がっていた。

臨戦態勢ということで、日中は兵の3分の2がいつでも戦闘に対応できるよう外で待機していたのだが、そのほとんどが雷に打たれ倒れているようだった。

そんなことがありうるのか、、?

コンコン!とドアをノックする音がして振り返ると、ひとりの少女が部屋に入ってきた。

「だ、誰だ!?」

「はじめまして、聖女です」

「なっ!えっ!?」

「あなた、ラグランジュさんだよね?」

「だ、誰かおらぬか!聖女だ!聖女がここにいるぞ!」

「いやいや、もう誰もいないよ?」

一体どういうことだ?全員死んだ?聖女がやったのか?いや、聖女は北にいるはず、偽者か?

「残念ながら本物です。どうする?もう降参する?」

「そんな馬鹿なことがあるか!聖女がこんなことするはずがない!お前は一体誰なんだ!」

「なんか話が全然噛み合わないねー?まあいいや、私は聖女だから、外の人達を生き返らせることもできちゃうよ?」

そう言って少女が指を鳴らすと、外が兵士達の叫び声で一気に騒がしくなった。

「ね?こんなこと、聖女じゃなきゃできないでしょ?でもちょっとうるさいから、もう一回黙らせよう」

少女が窓に向かって手をかざすと、背後から冷気が漂うのを感じた。恐る恐る外を見ると、辺り一帯が氷漬けとなっており、これでは全員凍死していることだろう。

「どうかな?信じてくれた?」

少女が笑顔で問いかけてくる。聖女なんかじゃない。こいつはバケモノだ。