聖女が発見されてから3ヵ月が経過した。

聖女にひとめ会いたいと渇望する者があとを絶たず、神殿はその対応に日々追われている。

王国は聖女発見の知らせに乗じて滞っていた経済をうまく回らせ、その尻拭いを我々神殿に押し付けているのだ。

王国が聖女を発見したことのみを殊更強調し続ける限り、聖女は森にいると我々がいくら説明しても、民は決して納得しないだろう。

捜索隊が下手を打ち、聖女は森の中で姿を隠し続けているという。

10年前に神殿への攻撃材料として考えなしに聖女を利用した王国の失策を責める者は少なくない。

聖女の発見は、その知らせだけで、目に見えた経済効果を発揮した。

王国はかつての失策を挽回するために再び聖女を利用したいと考え、なんとしても聖女を手元に置こうとしているのだろう。

聖女が結界を張って姿を消してからもうすぐ2ヵ月、尻拭いのために捜索隊に加えられ王国に戻ることが許されないでいる王子には、妙な親近感を覚える。

聖女が発見されたので捜索隊の規模は縮小され、王子を含む数人が残って、聖女が再び現れるのを結界のそばでひたすら待ち続けているそうだ。

その気の毒な王子から、私宛に直接手紙が届いた。結界に阻まれて手も足も出ない現状に焦れた王子は、藁にもすがる思いで教皇である私に助けを求めてきたのだろう。

王国と神殿の対立は根深い。故にこの申し出は正式なものではない。

私が行って何かが変わるとは思わない。だが教皇として聖女のそばに侍る機会があるならば、拒否という選択はありえない。

私はすぐに旅支度を始めた。

腰を据えて聖女と向き合うため、長期間神殿を留守にする覚悟で、代理の教皇を任命した。その手続きに時間を取られることとなり、私が聖女の元に到着するまでにひと月もかかってしまった。

王子からこれまでの経緯を説明してもらい、その労をねぎらう。

王子は年齢の割にしっかりとした若者である。

捜索隊が王国を出発してから、既に7ヵ月。彼は王太子ではないが、戦争でもあるまいし、一度も帰国を許されないのは酷というものだろう。

王子に過誤がなかったとはいわないが、あったともいえない、仕方がなかったのだ。

せめて私がここにいる間は、彼の責を半分もらおう。

憔悴しきった顔の王子に少し休むように告げ、私は早速結界の様子を見に行くことにした。

結界に触れ、聖女を感じる。

聖女は10歳にしてはかなり小さい体をしていたそうだ。この森の中で、どうやって暮らしていたのか。衣服を身に付けていないということは、人間との接触がなかったと考えるのが自然だろう。

目覚めた聖女に、サルが果物を与えていたのが目撃されている。そのサルが赤ん坊だった聖女を見つけてここまで育ててくれたのだろうか。

聖女とサルの出会いが降臨後間もなくであったことを願わずにはいられない。