思いがけない形で王妃の問題が片付いたが、ラグランジュ公のことがある限り、聖女達の元に戻るわけにはいかないだろう。考えても仕方がない。雑念を振り払い、俺はやるべきことに集中した。

それからしばらくすると、徐々に状況は好転していった。

レグブルモア公国との不可侵条約が無事締結され、父が手配してくれた分の予算で攻守の備えも整いつつある。

神殿は、万が一に備え軍の編成を水面下で開始したものの、あくまで中立を維持するよう指示を出したと教皇から連絡があった。

20年以上に渡って反対勢力を排除し続けてきた教皇には、ラグランジュ公がつけ入る隙などないらしく、神殿に関しては心配無用と言われてしまった。彼がそう言うなら、間違いないのだろう。

一方王国軍は、将軍自らが怪しい者達を次々と排除していくという、思いもよらない方法で軍内部の浄化を進めていた。

「俺を止めたければかかってこい。いくらでも相手になってやるわ!」

とは、将軍の言である。確かに、これが一番シンプルで確実な方法なのかもしれない。

完全に風向きが変わったことで、ラグランジュ公についていた貴族の一部が、裏で連絡をしてくるようにもなった。

だが、残念ながら彼らは信用に値しない。彼らには『ラグランジュ公に動きがあった時にどう動くかを見極めてからその後の処遇を決める』とだけ伝え、そのまま静観することとした。

これでラグランジュ公の勢力が王国を上回るのは、実質不可能となったはずである。

ラグランジュ公が自暴自棄にでもならない限り、この状態では動きようがないと思われた。このまま反乱を起こすのを諦め、引退でもしてくれればいいのだが、、

聖女が世界中に祝福の魔法を放ったのは、俺がそんな考えを巡らせてから間もなくのことだった。

世界中を回って人々に癒しを与えたのは決して無駄ではなかったようで、聖女が転生者だという事実は、あっけないほど簡単に受け入れられた。

そして、自分も転生者だと告白する者があとをたたず、世の中にはこんなにも転生者がいたのかと、皆が驚いた。

その流れで、ダニエリオが聖女の対となる転生者であることが判明した時、事態が急激に動き出すこととなってしまったのだ。