母上が騒ぎを起こし、北の塔に監視付で幽閉されたと知ったラグランジュ公が、私の元を訪れてきた。

「一体何があったんだ!?」

「母上がレオンティウスを短剣で切りつけたらしいのですが、私も詳しいことは知りません」

「あの馬鹿女め、、」

今朝、レオンティウスの父上との面会申請を私が通したと知った母上が怒鳴り込んできた。

「アレクシウス!あなた一体何を考えているの!?王とレオンティウスを会わせてはいけないとお父様が言っていたのに!」

「レオンティウスが父上の体調を心配していたので。彼にとっても王は父、、一度くらい会わせてやりたいと思ったのです」

「そんなことどうでもいいのよ!これを知ったらお父様がお怒りになるわ、、」

王の私室は頑強な結界に守られているため、刺客も影も侵入できず、監視ができないようになっている。

面会する機会がなければ、父上とレオンティウスは、連絡を取り合うことすらできないのだ。ラグランジュ公は父上とレオンティウスが結託することを恐れ、その機会を事前に潰していた。

もちろん私もそのことは知っていたが、先日レオンティウスと直接話し、私の中で燻り続けていた何かがその存在を主張し始め、それをほんの少し実行に移したのだ。

そして私は、ラグランジュ公の怒りをかうかもしれないと怯えて震える母上に、更なる追撃を加えた。

「それから母上、私は聖女と婚姻するつもりはありません」

「何を言っているの!?何故そんなことを、、レオンティウスね?レオンティウスに何か言われたのね!?」

『レオンティウスは聖女が好きなのか?』

そう聞いた時、レオンティウスは、幼い頃に私に遠慮して欲しい物を我慢している時と同じ顔をしていた。

幼い頃の私達は、ひとつの物をふたりで分けあい、分けあえない時は譲り合う、そんな仲のいい兄弟だったのだ。あの頃にはもう戻れないが、弟のために、今できる精一杯のことをしてやりたい。

その結果、母は騒ぎを起こして幽閉されることとなり、そして今、ラグランジュ公に詰め寄られている。

私がラグランジュ公の敵側に回るのは現実的ではないだろう。折をみてこちら側から撹乱する方がいい。

「王とレオンティウスの面会を許可したそうだな?」

大きく歯車が狂い始めたラグランジュ公が、怒りをあらわにしている。

「今朝母上にも咎められました。私が考えなしにしたことで、まさかこんなことになってしまうなんて。本当に申し訳ありません」

大袈裟な程に狼狽えてみせる。

ラグランジュ公が『無能な王子がやらかした』程度に思ってくれれば、これまで通り操り人形としての価値が私にはあるはずだ。

母上がいなくなった今、王に次ぐ権力を持つ私を、彼が手放すとは思えない。しばらくは様子をみて、大人しくしていよう。