「この話は、今ある問題が片付いたら、またいずれ」

そう言い残して、父の部屋をあとにした。

父は弱く、どこまでも優しい。

この国が平和で暮らしやすいのは、父のそんな優しさが強く影響していると感じる。優しいが故に足元を掬われやすく、今こうして危機に瀕しているとも言えるだろう。

兄は父に似ているのだ。だからこそ王の資質があると思い、父や兄にない強さや厳しさを自分が補えれば、国がより良くなると考えていた。

そのための努力が、俺を王にと望む者達を勢いづかせ、結果兄を追い詰めてしまった。

『お前以上に王に相応しい者はいない』

まさか父までそんな風に思っていたとは。だがどうしても、俺は自分がこの国の王に相応しいとは思えない。父も兄も、自分にない物を欲するあまり、この国の本当の良さを、見失っているのかもしれない。

「レオンティウス!!!」

突然、耳をつんざくような声で名前を呼ばれ、声がした方に顔を向けると、そこには怒り狂った様子の王妃がいた。

これはまずいと思ったが、王妃はもの凄い勢いでこちらに向かって来ている。もはや逃げる術はないだろう。

「妃殿下、、『バチン!』

挨拶をしようと頭を下げると、その途中で左頬に強烈な痛みが走る。王妃が扇で俺の左頬を打ったのだ。何か金具が当たったのだろう、皮膚が裂け、血が流れ落ちる。

驚きと困惑で動けずにいると、王妃が再び扇を持った手を振り上げた。両頬は勘弁して欲しいと思い、かといって、王妃に手は出せないので、右手の甲で扇を受ける。

それが気に入らなかったのか、王妃が怒鳴り始めた。

「お前!アレクシウスに何をしたの!お前のせいでもう滅茶苦茶よ!お前さえいなければ!お前なんて!死ねばいいのよ!!!」

王妃が何をそんなに怒っているのかはわからないが、それよりも、王妃がドレスをめくり上げる様子に、一瞬面喰らってしまった。

だが、王妃がドレスの中に隠し持っていた短剣を引き抜いたので、さすがに緊張が走る。これは避けないとまずい。

、、が、完全に避けてしまうのも惜しい気がして、右の脇腹をかする程度に刃を受ける。ここまでされたとなれば、正当防衛だろう。

王妃の腕を捻り上げ、その拍子で落ちた短剣を踏みつけた。本来なら蹴り飛ばす所だが、証拠を誰かに持ち去られてはかなわない。

「殿下!手をお離し下さい!」

そんなまさかで、王妃の護衛が、王妃を拘束する俺の腕に手をかけた。

嘘だろ?こいつらちゃんと見てたのか?王妃は俺を殺すつもりで襲いかかってきたんだぞ?だから俺に拘束されてるんだぞ?今俺が手を離したら、また襲われるだろ?そしたらお前ら、王子殺害の共謀だぞ?そもそも!何でお前ら王妃を止めないんだ!