「年齢的にもまだ幼いですし、10年間森の中で過ごし、そのまま旅を続けているので、一般的な常識に欠ける部分もあります。まあそこが聖女の良さでもあるのですが、とにかくユニークな方なんです。自分勝手でわがままで、ですが誰よりも優しく、思いやりがある。これまでの聖女とはまるで違った雰囲気ではありますが、ある意味聖女らしい聖女なのかもしれません」

そうだ。俺は、執拗に聖女を狙う王妃と決着をつけるために王国に戻ってきたのだった。だがあの調子では王妃とまともに話すこともできないだろうし、他にも問題が山積みだ。

兄は、王妃が進めようとしている聖女との結婚を、どう考えているのだろう。

「兄上は、、聖女にご興味がおありなのですか?」

「そうでもなかったが、レオンティウスがそんなにユニークだと言うなら、会ってみたいな」

何!?藪蛇だったか、しくじった。

「いや!控えめに言えばユニークですが、聖女は癖が強いというか、風変わりというか、、実際に会うとがっかりを通り越して、憤慨なさるかもしれませんよ!?」

慌てふためく俺の様子がおかしかったのか、兄がくつくつと笑い出した。そして、テーブルの向かい側に座る俺に顔を寄せるよう手招きし、声を落として耳元で囁く。

「レオンティウスは聖女が好きなのか?」

「っな!」

予想外な兄の言葉に驚いて、思わずのけぞってしまう。その質問に肯定はできないが、否定もしたくなくて無言を貫いたが、これでは肯定したも同じだろう。

すると突然、兄が大笑いし始めた。

「あーこんなに笑ったのは久し振りだよ。レオンティウス、お前は昔と変わってないのだな。昔、お前と海で遊んだ時は、本当に楽しかった。できることなら、あの頃に戻りたい」

あの頃も楽しいことばかりではなかったはずだが、今の兄は、背負う物も足枷も多過ぎて、がんじがらめになっているのかもしれない。

「いつか、、また一緒に、海に行きましょう」

「ふふっ、そうだな」

それが無理だとわかっているのだろう。兄が笑って俺の言葉を軽く流した。

「本当に、レオンティウスは昔のままだ」

そう言う兄の顔は少し悲しげではあるが、昔と変わらない優しい兄の顔をしていた。

「邪魔して悪かったな。話せて良かったよ。実に楽しかった」

休憩を終えてユリウゴットが戻ってくると、兄は部屋から出ていった。

やはりさっきの脅しは兄らしくないと感じる。何か理由があるのかもしれないが、それが何かはわからなかった。