一体、何が起こったというのか。

聖女が目を覚ましたという報告を受け慌てて外に出ると、仲間のひとりが剣を振り回して大騒ぎしていた。

「お前!ふざけんな!どんだけ人を待たせたら気が済むんだよ!」

気持ちはわからなくもないが、だからってなんで剣を振り回す必要があるんだ?長期間に渡るこの厳しい環境が、彼を狂わせているのだろうか。

とりあえず落ち着かせようと近付くと、彼が苦しそうな様子で膝をついた。え?どうした?と思った次の瞬間。彼の腕に一筋の赤い線が入るのを目にした。

攻撃を受けたと思い振り返ると、少し離れた場所で、サルを抱いた小さい女の子が怯えた表情をしている。

シュッ!という音が聞こえて、結界が現れた。

しまった!と思ったがもう遅い。

よくわからないが、この状況では結界があろうがなかろうが、大して差はないだろう。

聖女にしては少し小さく感じるその女の子が、恐る恐るといった雰囲気でこちらに近付いてきた。

傷ついて今にも息絶えそうな猪のそばにしゃがみ込み、そっと手をかざす。

ああ、彼女は間違いなく聖女だ。

俺達のそばで、いまだ悪態をつきながら泣き叫んでいる彼にも、聖女の手はかざされた。

そして聖女は、俺達の前から姿を消した。

聖女に攻撃され癒されたその男に聴取を試みたが、まともに話せる状態ではなかったため、帰国させることにした。

代わりに一部始終を見ていた者から話を聞く。

目を覚ました聖女はこちらに気づくとサルを抱いて近付いてきたそうだ。だが途中で足を止め、その様子を見ていたあの男が突然キレて、そばにいた猪を斬りつけたのだという。

サルに気をとられていた聖女だったが、剣を振り回しわめき散らしているその男をみとめると、突如憤怒の表情を見せたらしい。子供らしからぬその激しい怒りのオーラは、目撃した者全てが恐怖を感じたというのだから、並大抵のものではないのだろう。

猪を傷つけたせいなのか?

男に気をとられて聖女の怒りに触れていない俺は、猪と男を共に癒したあの聖女が、そんなことでそこまでの怒りを見せるとは思えなかった。

あの男と一緒に探索をしていた仲間に話を聞くと、聖女の怒りの理由が判明した。

探索が始まってしばらくすると、ストレスを溜めたあの男は、無駄に動物を攻撃するようになったという。その男の行動を目にするのは非常に不愉快だったが、いくら注意をしてもキレるばかりで全く話にならなかったそうだ。

そして、聖女を発見した日に男が手にかけたのは、おそらく聖女が抱いていたあのサルだったのだろう。

あのサルは、眠り続ける聖女のそばをいつもウロチョロしていた。

あの時俺達の体を通り抜けた凄まじい量の魔力は、聖女があのサルを癒すために無我夢中で放ったものだったと言われれば、全てが腑に落ちた。