兄の話から察するに、父は命を狙われているらしい。

俺も先日ラグランジュ公に脅されはしたが、まさか兄にまで脅されるとは思ってもみなかった。だが本気で俺を殺すつもりなら、脅したりなどしないだろう。

わざわざ父の話を出して脅した理由は『余計なことをするな、従わねば殺す』ということか?俺の知っている兄は人を脅すような人間ではなかったが、会わなかった4年の間に何があったかは知る由もない。

父は大丈夫なのだろうか、、

とは言っても、面会すら叶わない今の俺では、無事を祈る以外できることは何もない。

俺はともかく、王である父にまで刃を向けるとは、ラグランジュ公をこれ以上野放しにしておくのは、やはり危険だ。

ラグランジュ公及びそれに連なる貴族と領地を接する領主には、既に影を使って接触し、今後は直接書類のやり取りをするよう指示を出したので、これまでのように政務が滞ることはないだろう。

とにかく一刻も早い勢力の回復と、万が一に備え、早急に準備を整える必要がある。

これまでの調べで、ラグランジュ公が王国の北にある三国と密談を交わしていることが判明している。

その内容までは把握していないため、ラグランジュ公が何を企んでいるかはわからないが、彼が王国軍を掌握して反乱を起こせば、王国を乗っ取ることも不可能ではない規模にまで勢力を拡大しつつあるのは確かだ。

共に帰国した護衛のディオネッロの報告によると、現在王国軍は正常に機能している。しかし、ラグランジュ公の息のかかった者が軍の内部で不審な動きをしているのが確認されているので、油断は禁物だろう。

将軍と直接話せれば早いのだが、監視が外せない限りそれは難しい。多少時間はかかるが、これも影を使って接触をはかるしかない。

今のところ神殿にラグランジュ公の触手は伸びておらず、いざという時に軍の編成が可能か、教皇を通して打診している。

寝返らせた影の大多数を連れて帰国するよう進言してくれた教皇は、王国の現状を把握していた可能性を感じる。

正直、影がいなければ身動きの取りようがなかった。優秀な彼らは、ユリウゴットの監視をものともせず、俺の思うままに動いてくれている。

彼らは俺や聖女を狙って王国が放った影で、教皇が魅了を使って情報を引き出したあと、魅了を解除した者達だった。魅了解除後、ほぼ全員が我々の元にとどまり、味方となった。

あくまで推測ではあるが、教皇の魅了を解除され不安定な状態となった影達は、その場に立ち合っていた俺の魅了の影響をもろに受けてしまったのだろう。

解除後も教皇の魅了の影響下にあると思っていた影達が、帰国後数ヶ月経っても様子が変わらないことでその可能性に気づいた。

恐らく教皇はすぐにそのことに気づいたはずで、道理でいつも解除に俺を立ち合わせていたのだと合点がいった。

本当にあの人は食えない男だ。