「一体いつになったらレオンティウスはいなくなるのよ!」

母上の金切り声がこめかみに響いてなんとも不快だ。

「ベルナデット、少し落ち着いて言葉を慎みなさい。誰が聞いてるかわからん」

ラグランジュ公が興奮する母上を嗜める。誰も聞いていなければ今の不穏な発言が許されると言うのか。さすが親子だな。

私にも彼らと同じ血が流れていると思うと吐き気がする。

「王が議会に顔を出さなければすぐにでもレオンティウスを失脚させるんだがな。それがわかってるからやつも不調を押して出席してるのだろう」

「なら薬の量を増やせば、、」

「ベルナデッド!」

ラグランジュ公が顔色を伺うようにこちらに視線を送ってきた。

彼を安心させるため、困ったような表情でほんの少し微笑み、目線を外す。

そんな私を宥めようと、母上がすがるように私の手を取り、それを自らの頬に擦り寄せた。

「大丈夫よアレクシウス。私が全てうまくやるから。あなたは何も心配しなくていいのよ」

母上が今何を考えているのかわからないし、わかりたくもない。

数年前に考えることをやめた私は、全てを母上とラグランジュ公に委ね、彼らの思うままにしていた。

今の話からすると、どうやら彼らは父上に薬を盛っているのだろう。まさか命を取ろうとまでは考えていないと思いたい。

少なくともラグランジュ公は私が王の血を分けた息子であることを覚えているようだが、母上にはその認識が既になくなっているらしい。

このまま放っておけば、母上が自滅するのは間違いない。

一方ラグランジュ公は裏で何やら画策しているようで、着々と力を蓄えており、その発言力は今や王を凌いでいると言っても過言ではないだろう。そして、彼に言われるままに動いている私は、その一端を担っている。

もし王に何かあれば、王太子である私が次の王になる。それはすなわち、ラグランジュ公がこの王国を手に入れるというに等しい。

王太子の私は幼い頃から王になるべく教育を施され、それを当たり前のものとして受け入れてきた。決して楽ではない日々を送る中で、比較され常に負け続けたことで、いつからか私は、レオンティウスを目障りだと感じるようになっていた。

だが、私がレオンティウスを手にかけてでも消してしまいたいと思うほど憎んでいるかと言われれば、そんなことは決してない。

物心ついた時、母上の目には自分が全く写っていないことに気づいてしまった。そして父上は、私にとって、王以上でも以下でもない。

私の周りには、私をひとりの人間として扱ってくれる人が、レオンティウス以外に見当たらなかった。私にとって、レオンティウスが唯一の家族だったのだ。

このまま私が何もしなければ、私は唯一の家族を失うのかもしれない。

だが今の私にできることなんて、何もないように思えた。