『みなさんこんにちは、聖女です』

執務室で山積みにされた書類の確認をしていると、突然懐かしい声が頭の中に響いた。

もう普通に話せるようになってしまったのか。カタコトで話す聖女を見逃したのが残念でならない。書類にサインをしていた手を休め、聖女の話に耳を傾ける。

「どうかされましたか?」

補佐官のユリウゴットが、急に動きを止めた俺を不信に思ったのか、声をかけてきた。このいかにも神経質そうな男は実に優秀でかなり助けられているが、残念ながら彼の最も重要な仕事は俺を見張ることだ。

「いや、何も問題ない」

聖女の魔力に触れたことのない王国の人間には聖女の声が届いていないのだろうと考え、話が終わったのを確認してユリウゴットに返答する。

それと同時に、聖女特有の光を帯びた魔力が降り注いだ。癒しの魔法とは違う優しくて暖かな魔力を浴びて、しばしの間幸福感に包まれる。

どうやら、光を浴びたのは俺だけではないようで、城内がざわつき始めた。

まさか、今の魔法を世界中に放ったのか?

またこんな無茶をして、、教皇に怒られている聖女の様子が目に浮かぶようだ。

「会いたいな、、」

聖女達と別れてから、既に1年近くの月日が流れていた。

王国に戻るとすぐ、父である王に呼ばれ、報告を求められた。

広間には王だけではなく、王妃と王太子、貴族達が待ち構え、聖女を連れ帰らなかったことについて激しく糾弾された。

中でも王妃の剣幕は凄まじく、その様子は常軌を逸していたが、彼女を諌める者は誰もいない。それどころか、火に油を注ぐかの如く貴族達が王妃に追随し、まるで競い合うかのように俺の責任を追及し続けた。

その後も聖女に関する件と銘打って幾度となく議会が召集され、同じことが繰り返された。台本でもあるのだろうか?と疑いたくなるほど、毎度毎度同じ質問をされては同じ説明を繰り返し、かといって責任を取らされる訳でもなく、無駄に時間だけが過ぎていく。あまりの馬鹿馬鹿しさに何度席を立とうと思ったことか。だが王がいる限りそれすらも叶わない。

父はこの件に関して沈黙を貫いており、何を考えているのか皆目見当がつかなかった。

ただひとつわかっているのは、俺が王国を離れていた4年の間に、国政がかなり停滞していることだった。

父と兄は仕事をしていないのか?と不安になるほどの書類が山積みになって溜まっており、一体どこから手をつければいいかもわからない状態で途方に暮れた。

少しでも早く聖女を迎えに行きたいのに、どうやらまだまだ先になりそうだ。