数日後、街の中心にある大きな広場に人を集めるよう聖女から指示された。

広場には多くの人が集まり、正装を身にまとった聖女が壇上に現れると、その神々しい姿に、その場にいた誰もが目を奪われた。異様なほどの静けさの中、突如脳内に声が響く。

『みなさんこんにちは、聖女です。みなさんにお伝えしたいことがあって、私の魔力に触れたことのある全ての方に、直接お話させてもらっています』

『突然ですが、私は前世の記憶がある、所謂転生者です。過去にあった戦争の影響で、転生者が悪しき者として認識されていることは、私も承知しています。もちろん、戦争という大罪を犯した者を擁護するつもりはありません』

『しかし今、あるご家族が転生者だと疑われ、嫌がらせを受ける被害にあわれています。真面目で優しくて親切で非の打ち所のない彼らが、ただ転生者だと疑われただけで攻撃されることに、私は疑問を感じました』

『人は、環境によって左右されるものだと、私は思います。私が今、聖女としてみなさんの前に立てているのは、私を見つけてここまで支えてくれた仲間達と、こんな私を優しく迎えてくれたみなさんのおかげです』

『かつて戦争を起こした者が、あなた達と同じ家庭に生まれ同じ環境で育っていたら、戦争は起きなかったかもしれない。逆もまた然り、環境が違えば、あなた達も悪に染まる可能性がある』

『聖女の私が転生者だから悪ではなく善、などと言うつもりはありません。ただどうか、転生者か否かで人を判断せず、自分で見て感じたままを信じて欲しいのです』

『この世界は争いが少なく、みな明るく楽しく平和に暮らしていて、本当に素晴らしいと、世界中を旅して感じました。周りにいる人達がいい人ばかりだと感じているのは、私だけではないと思います。悪い人が全くいないとは思いませんが、みなさんが住む世界は、非常にいい環境です』

『こんなにも優しい世界に転生できたことを、私はこの上なく幸せだと感じています。私以外の転生者も、きっとほとんどの人が同じように感じていると思います』

『私が転生者だと知って裏切られたと感じる人もいるかもしれません。でも私は、私を信じて支えてくれる人達を裏切るようなことは絶対にしないし、今後も胸を張って生きていくつもりです。まずは私が、転生者にも善人はいると示せるよう、努力したいと思います』

『最後にもう一度だけ、お願いします。転生者であることは悪ではありません。攻撃を加える前に今一度、相手が自分と同じ人間であることを思い出し、公平な目で善悪を確かめて欲しいと強く望みます』

『皆に祝福を!』

そう締めくくった聖女が両手を高く掲げると、心地よい魔力が空から降り注いだ。