「あのサルが結界の中にいた梨花子さんを見つけたんでしたよね?」

放課後、教会の訓練室に寄って魔法の練習をするのが日課となり、その休憩中に教皇に話しかけた。

「ええ、あのサルがいなければ、聖女は今も森の中にいたはずです」

俺達から少し離れた場所で戯れる聖女とサルに、教皇が優しい眼差しを向けている。

「サルが聖女を見つけたのは偶然なのか運命なのか。どちらにしても、あのふたりは切り離せないほどの強い絆で結ばれていますから」

「文字通り、本当にいつも一緒ですもんね」

「言われてみればそうですね。普段はサルもわりと自由に過ごしていますが、今は王子がいなくなって聖女が寂しがってるから、余計に離れずにいるのかもしれません」

聞こえてくるサルの言葉から、飼い主を慕う以上の強い想いを感じてはいたが、『運命』というワードが妙にしっくりときた。それがなんなのか確信を持てないでいたが、唐突にその正体が明らかとなった。

その日は学校でレクリエーションがあり、普段言葉が通じないせいであまりみんなとコミュニケーションが取れない梨花子さんは、大はしゃぎしてかなり体力を消耗していた。

「今日はもう駄目かも。なんかクラクラしてきちゃったよ」

いつも通り魔法の練習をしに訓練室に来ていたが、梨花子さんはその後間もなく、スイッチが切れたように寝てしまった。

「体力を切らすとは珍しいですね?仕方ない、今日はもう解散しましょう」

そう言って、教皇が梨花子さんを抱き上げた。

『はあ、人間に戻りたいなあ。せめてゴリラだったら、俺がりかちゃんを運べるのに。いやいや、駄目だ!そしたら結界に入れなかったし!ゴリラになるくらいなら普通に人間に転生したかったし!』

既に聞き慣れたサルの声がして、いつも通り聞き流すつもりが、その内容に驚かされた。

『あ、でも人間だと成長も遅いしなあ。そもそも人間だったらあんな森の奥深くには絶対入らないから、やっぱゴリラじゃなきゃりかちゃんに会えないじゃんか。いや、だからゴリラじゃ結界に入れないじゃん!サルじゃなきゃ駄目じゃん!あー!なんで俺はサルなんだ!くそっ!俺だってりかちゃんをこの腕で抱き締めたい!』

サルがキーキー言いながらのたうち回っている。

話が堂々巡りでよくわからなかったが、間違いなくこのサルは、元は人間で転生者、、いや転生ザルなのだろう。

梨花子さんを抱いた教皇のあとを必死で追いかけるサルの後ろ姿を眺めながら、俺は思った。

サルだと思ってたから気にならなかったが、元が人間だとすると、彼はあまり賢くはなさそうだなと。