『りかちゃん、またキラキラ王子のこと思い出しちゃった?大丈夫、俺はずっとそばにいるからね』

梨花子さんとの会話の途中、耳からではなく、脳に直接言葉が伝わってきた。

梨花子さんが俺の学校に編入してきてすぐ、教会の結界で守られている魔法の訓練室で、教皇を加えた3人で話す場が設けられ、前世ではいつどこで何をしていたのか、いつ頃転生したのか、転生後じいちゃんに拾われるまでどう過ごしていたのかを、事細かに聞かれた。

驚いたことに、俺と梨花子さんは転生前は同じ時代に同じ町で暮らし、おそらく死んだタイミングもほぼ同時期だった。

そして転生後、梨花子さんも俺と同じように森の中で意識を取り戻し、無自覚で張った結界の中で、10年もの間赤ん坊のまま時を過ごしていたという。

同じ条件下にありながら、動物に襲われ続けた俺とは随分違った時間を過ごしていたわけだが、どちらがましだったかなんて尺度で測れるものではないだろう。梨花子さんも同じように感じたのか、俺の話を聞いて辛そうな表情をしていたのが印象的だった。

梨花子さんと教皇は、俺がどうやって魔力があることを人に知られずに過ごしていたのかに興味があったらしく、ふたりに魔力制御の指導を頼まれた。

俺の場合、魔力より魔動力の数値が高く、早い時期に制御を覚えたこともあってそう難しくもなかったが、膨大な魔力を持つふたりが完全に魔力を押し込めるのはかなり難しく、特に魔力の多い梨花子さんは、いまだ完全に制御しきれていない。

他にも、森の中で習得した数々の攻撃魔法を披露すると、梨花子さんは歓喜し、教皇はえらく感心してくれた。

そして、収納魔法を披露した時、ふたりは目の色を変えてその仕組みを知りたがったが、うまく説明ができなくて、この件は後日へと持ち越された。

梨花子さんも魔法を色々披露してくれて、自分で試せそうな魔法をいくつか教えてもらったが、その中に通訳魔法があった。

俺は言葉が話せなくてもギリギリ不自然じゃない時期にじいちゃんに拾われたおかげで、普通の子供のようにゆっくりと言葉を覚えられたから、必要のない魔法だったのだろう。

梨花子さんの説明を聞いて何の気なしに試してみたが、こちらの言葉も梨花子さんが話す日本語も普通に理解できるので、全く意味をなさなかった。

ところがその翌日から、学校で梨花子さんのそばにいると、不意に頭の中で日本語が聞こえてくるようになったのだ。

それが、いつも梨花子さんのそばにいるサルの声だと気づくのに、そう時間はかからなかった。