「はじめまして、聖女です。今日は案内、よろしくお願いしますね」

12年振りに耳にした日本語は、俺を激しく混乱させた。

人形のように美しい顔立ちの聖女だが、よく見れば目鼻立ちは日本人らしいじゃないか。そうか、聖女も俺と同じ転生者で、だからこうして理由を作って俺に会いにきたのか。

それにしても、こんなに堂々と日本語を話して、聖女が転生者だと知れ渡っても大丈夫なのか?

転生者が良く思われていないのはこの世界の共通認識だと思ってたが、ばれないように必死で隠してきたのが虚しくなるな。

俺が転生者だとばれたのは、教皇と目が合ったあの時で間違いないだろう。でも、確信があるのだろうか。疑いがあるってだけで、それを確かめにきたのかもしれない。

意図がわからないと、動きようがないな。

俺は、、どうしたい?

俺には、恋をして結婚をして平凡だけど幸せな家庭を作るという、前世では果たせなかった夢がある。

俺を拾ってくれたじいちゃんや、養子にしてくれた父さん母さんとの生活にも満足しているし、何よりも感謝していて恩返しがしたいと思っている。

だが、そもそも俺に選択権があるのか?

相手は唯一無二の聖女様と、神殿を統べる教皇様、そしてあの大国の第二王子が護衛って。今戯れに殺されたとしても、しょうがないと諦めなければならないレベルだ。

ならばいくら考えても無駄だし、例え転生者で魔法が使えると周囲にばれても、俺の夢はその気になれば叶えられるし、じいちゃん達への恩返しもできるだろう。

うん、何も問題ないな。

今は何より、鑑定なしでも感じるほどの強烈な魔力を放っている聖女と教皇への関心が勝っている。

魔力を完全に抑えることができるようになってから、俺は一度も全力で魔力を放出したことがない。大きな力を持つ二人を前にして、自分の力を試してみたいという衝動にかられている。

そして純粋に、街全体を覆う癒しの魔力を平然と放った聖女と、結界を張った一瞬で俺の魔力を感知した教皇に、傾倒しているのかもしれない。

学校を案内しながらずっとタイミングを見計らっていた俺は、思いきって聖女に日本語で声をかけた。

「聖女様は日本人、ですよね?」