その日、王国南部に広がる大森林を中心に、凄まじい威力の癒しの魔力が、広範囲に渡って放たれた。

その威力は数百キロにも及び、魔力が到達した範囲内で、ありとあらゆる怪我や病気を完治させた。

その後すぐに聖女が発見されたという知らせが王国に届く。

聖女発見の知らせを受け、奇跡を目の当たりにし歓喜した人々が、聖女を求めて神殿に殺到した。

当然、聖女は神殿にはいない。

私は頭を抱えてしまった。

どうして王国は、民の心を乱すようなことばかりするのか。

発見されたというだけで、聖女はまだ森の奥深くにいる。この先聖女が森を出て神殿で暮らすようになるという保証は、どこにもないのだ。

ならば、無駄に人々の期待を煽ることが、一体なんのためになるというのか。

聖女不在の不安に世界が苛まれた時も、それを払拭するのにどれほどの労力を要したことか、、

我々神殿への嫌がらせのために、わざわざ面倒を起こしているのではないかと疑いたくなるレベルだ。

今回の奇跡に関しても、10年の間沈黙を守った聖女が何故人智を越えるほどの力を誇示する必要があったのか、大いに疑問が残る。

タイミング的に捜索隊との接触によるものとしか思えないが、森の中で何が起こったのかは知りようがないのだ。

通常、能力を越えて魔力を使えば命に関わるとされている。

今はただ、あれ程の魔力を放出した聖女が無事でいることを、静かに祈ることしかできない。