「でも、召喚されるのが聖女だけなら、正直ちょっとほっとしたかも」

すると、黙って私と聖女の話を聞いていた王子が口を開いた。

「聖女が転生者だって秘密を隠さずに話してくれたから、俺も王国の秘密を少し話そうか」

ここだけの話だとつけ加えて、王子が話を進める。

「初代の王は捨て子で、もとは浮浪者だったらしい。そのせいか過去について話したがらず、どこでどうやって大人になったのか、魔法をどうやって身につけたのか、詳しいことは何ひとつ明らかになっていないんだ。それと、過去に戦争を起こした転生者の何人かは王国が捕らえて調査を行い、裁判にかけて処刑してるんだが、初代の王と同じで、素性は不明となってたな」

ちなみに、、と重ねて口止めをした王子が続ける。

「彼らは処刑することができずに幽閉され、老衰で死んだそうだ。捕らえた転生者全員な。転生者と聖女が似てると感じるのもわかる気がするが、聖女は人を傷つけて平気でいられる人間ではないと思うし、もし聖女が聖女じゃなくても、きっと戦争を起こそうとは考えなかったと思うよ」

王子の話は聖女の推測を裏付ける内容で、聖女の表情は厳しいものに変わった。安心させるために付け加えられたであろう慰めの言葉も、残念ながら功を奏していないようだった。

王子の話は更に続く。

「聖女の話を聞いててふと思ったんだが、もしかしたら知られてないだけで、聖女を召喚すると同時に男子が召喚されてる可能性はないだろうか?」

ないとは言いきれないが、そんな話は聞いたことがない。

「転生者と聖女はいつも同じ年頃だったし、そう考えると、色々と辻褄が合うと思うんだが」

王子の言う通りかもしれない。

だが、歴代の聖女と同じ人数の保護されなかった赤ん坊がいたという事実を、簡単には受け入れることができない。

運が良ければすぐに発見されて普通に育てられた赤ん坊もいただろう。そして発見されずに放置された赤ん坊が、何かのきっかけで成長をとげて、戦争を起こしたというのか?

だがそれよりも更に最悪なのは、発見されないまま死ぬこともできない赤ん坊がいたかもしれないことだ。

聖女の召喚はこの世界を維持させるために必要不可欠なのだ。

だからと言って、しょうがないと割り切ることなんてできない。

「ジョニデ、過ぎたことだよ。考えなくていい」

私が何を想像してるかを察した聖女が声をかけてくれたが、最悪な想像は止められそうになかった。