あぁ、そういうことか。
とはいえ、いったいなにをどうすればこんな風になるのか。


「……莉乃、フライパンに油引いたのか?」

「えっ!? 油って……?」


莉乃はあたふたしながら、調味料が並べてある棚から油を探そうとしている。

いやいや、もう遅い。
というより、まさかそこからだとは思っていなかった。

1人暮らしをしていたし、家事全般は大丈夫であろうと勝手に思い込んでいたが、どうやら甘かったようだ。


「ほ……本当にごめんなさい」


目に涙を滲ませながら、もう一度謝る莉乃。

別に、謝って欲しいとかそういうことではない。
冷蔵庫の食材を勝手に使ったことだって怒っていないし、疲れて帰宅するであろう俺のことを思ってしてくれたんだろう?

そう思うと……愛おしいじゃないか。


「莉乃、顔上げて」


いつの間にか手で顔を覆って、莉乃はシクシク泣いている。

俺の声に反応してくれた莉乃の頭を手で引き寄せると、おでこにそっとキスを落とした。
そして、明かに動揺している莉乃を、ぎゅっと抱きしめる。


「え……蒼汰、さん……?」

「莉乃、料理できないんだな」


俺の胸に顔をうずめたままの莉乃は、俺の問いかけに小さくコクンと頷いてくれた。
……やっぱりそうか。