カマイユ~再会で彩る、初恋


ふわふわと浮遊感のような心地よさは、酒が入っているからなのか。
それとも、彼女とのキスに酔ってしまったのか。

ガキじゃあるまいし、三十五歳のオッサンが軽めなキスで動揺するなんてあるのだろうか。
……それなりに経験だってあるのに。

多感な中高生の時期は来るもの拒まずで受け流していた。
母親が亡くなり、女癖の悪い父親との二人暮らしは居心地悪くて。
いつも違う女が家にのさばっていて、父親が口説いたはずの若い女が俺を口説いて来ることもあった。
さすがにそれを受け入れるほど、鬼畜でもなく。
だから、泊まらせてくれるような女を繋ぎ合わせたような日常だった。

日本の大学に進学するにあたって、父親との関係を断ち切るように全てをリセットするつもりで日本へと渡った。

母親方の祖母との生活は刺激には富んでなかったが、安らぎと潤いは満たされるようになった。

父親のように欲に呑まれるような色魔にはなりたくなくて、誰も愛さないと決めていたのに。
俺の闇の心でさえ、全てを浄化するように見透かされている気がする。
この『五十嵐 茜』という女性だけは。

ゆっくりと俯いていた顔が持ち上がり、黒々とした大きな瞳が俺を捕らえる。
心の奥の俺の気持ちも、今考えている脳内の思考でさえ全て見抜くような真っすぐな視線で。

吸い込まれるように見つめ返し、そっと頬に手を添え、何か言いたそうに僅かに開いた唇に自身の唇を重ねた。

柔らかい唇の感触。
輪郭を確かめるように上唇を啄んで、甘噛みする。

角度を変え、下唇を舌先でなぞり、チュッと軽く甘吸いすると、彼女から甘い吐息が漏れ出した。