港区でも北西部にあるこのマンションは新宿区と渋谷区にも程近く、都内でも好立地な場所に位置している。

「ベランダから神宮外苑の花火が見れるから」
「えっ?」
「知らなかったのか?今日、花火があるの」
「今日なんですか?……明日かと思ってました」
「音が反響してちょっと煩いけど、花火はよく見えるから」
「ビールに花火、贅沢ですね」

不規則勤務の彼女にしてみれば、イベントものはあまり興味がないかもしれない。
今年はプロ野球の試合の関係で八月第一土曜日に開催されることになっていて、先週行き会ったタイミングで言おうかと思ったけれど、いい歳して舞い上がってると思われるのも嫌で、結局言えなかった。

「まだ時間早いし、先にシャワー浴びて来ていいよ。適当な服出しとくから」
「……何から何まですみません」

申し訳なさそうにする彼女を浴室へと送り出し、手際よく夕食とつまみ作りを再開した。

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「あ、そうだ。置き服とか必要なものあったら、置いてっていいからな?」
「えっ……いいんですか?」
「無い方が不便だろ」
「……はい」

俺もシャワーを浴び終え、彼女とベランダで涼みながらビールを口にする。

綺麗な混色になるように、予めパレットに好みの絵の具を出しているようなもの。
彼女がこの家に通いやすいように当然のように下処理をさりげなく仕向ける。

「この海鮮やきそば、凄く美味しいです」
「そうか?そりゃあよかった」

普段からそんなに会話が弾む方ではないが、少しぎこちない。
俺が変に緊張しているからかもしれない。
お泊り三回目とはいえ、今日は酒が入っても彼女が簡単に寝落ちそうにないからだ。