ハザードランプが点滅している車を視界に捉えながら、右腕が反対方向へと引き戻される。

「痛いですっ、話して下さい。何なんですか、一体」
「連絡先教えて下さいっ!」
「はい?……私、彼氏がいますんで」
「だから?彼氏ってことは、まだ未婚でしょ」
「は?」
「結婚してないなら、俺にもまだチャンスがあるってことだよね?」
「何語ですか?言ってる意味がさっぱり分からないんですが」
「話して食事したら、意外にも俺のこと好きになるかもしれないでしょ」
「どこから来るんですか、その自信」
「どこだろ……ここら辺?」

自身の顎に指先を当て、いかにも顔に自信があります!的なアピール。
いやいや、先生の方が何倍もイケメンだから。

「先ほどもお伝えしましたが、パーティーで結婚相手を探しに来たわけじゃないんです。相手ならちゃんといますし、貴方と食事をしたり、連絡を取り合う気も微塵もありませんからっ!」
「フフッ、ますます気に入った。貴女みたいにズバッという女性は結構好みでね」
「貴方の好みなんて、どーでもいい。離して下さい」

掴まれている手首を振り払おうと、腕を無理やり上下に揺らす。
けれど、さすがに男性の力には勝てない。
掴まれている手首がジンジンと痛み始め、仕方がないからベルボーイに視線を向けた。

ここで大声で助けを呼べば済むこと。
高級ホテルのエントランスで騒ぎとなれば、嫌でもホテルの人がやって来てくれるはず。

タクシーのトランクに荷物を積み込んだベルボーイとバチっと視線が交わった、その時。

「茜、……知り合い?」