シャンプーの匂いにつられて近づいた結果、見事に理性に呑まれてキスする寸前。
よく耐えれたな、俺。

しかも、何だよ、この顔。
恐ろしく可愛いじゃないか。
こんな顔されたら、今すぐにでも押し倒したくなる。

もう無理だ。
優しい恩師でいるのも、カッコいい先生でいるのも。

「このまま、連れ帰ってもいいか?」
「ひぇっ?」
「それとも、泊まりに来るか?」
「ッ?!!」
「……フフッ、冗談だよ。そんな嫌そうな顔しなくても…」
「あっ……嫌というわけじゃ……」
「……嫌じゃ……ないんだ?」
「っっ……」

驚いたような困ったような表情に、胸がズキンと痛む。
俺が急にあからさまに態度を変えたから、驚くのも無理はない。
化けの皮が剝がれるのなんて、きっとそう遠くない。
どんなに必死に我慢しようと思っても、たぶんもう無理なのだろう。

「十時にここで待ってる」
「……へ?」
「映画でも観に行かないか?」
「っ……はいっ」

そんな嬉しそうな顔、俺は期待してもいいのだろうか。
両手で口元を覆い、彼女は肩をすぼめた。

祥平に感謝だな。
テイクアウトはできなくても、不確かな約束ではなく、しっかりと十時間後に会う約束を取り付けれたのだから。

彼女からの連絡を待ってるんじゃなくて、カッコ悪くても自分から彼女に歩み寄らないと、きっとこの恋は成就しない。

暗黙のようにガチガチに固められた見えない関係を崩すのは、容易でないことは理解している。
けれど、もう描き始めたキャンバスは元には戻らないから。
少しずつでも想いを乗せて、俺はこの恋に色付けしてみせる。