俺が日本に帰国し、教師になった経緯も話した上で、今後の話を切り出す。
「今は祖父の右腕だった人が財団を率いてくれているんだが、年齢的なこともあって数年前から財団の後継者問題の話が出ている」
「じゃあ、……先生を辞めて、財団を引き継ぐってことですか?」
「ん、そうなるな」
「お爺様の会社も?」
「……恐らく」
教師を辞めても無職になるわけじゃない。
ただ、暫くは忙しくてかまってあげれなくなりそうで。
「このマンションの二十階より上が祖父の遺産の一部なんだ」
「……え、えっ、…え?」
「二十階と二十一階は財団の人に貸してて、この部屋が二十二階。あと上に三フロアあるけど、どこも保管庫にあててる」
「……はぁぁ?」
「呆れるだろ」
「………はい。先生、頭大丈夫ですか?」
驚くだろうとは思っていたが、イカれた男扱い受けるとは思わなかった。
いや、その通りかもしれない。
物心ついた頃には父親が世界的に有名な彫刻家になっていて、衣食住に苦労したことはない。
日本に帰国した後も、祖母(祖父は他界していた)がずっと生活を支えてくれていたから、苦労知らずのボンボンなのは否めない。
だからこそ、愛する女性と人生を共に歩むと考えた時。
生活の基盤くらいは自分の手で整えなければいけないと思ったんだ。
「キャンバスやパネルは描く前は重ねて運ぶけれど、描いた後って作品を傷付けないように一つ一つ運ぶだろ」
「……はい」
「このキャンバス持ち上げてみ?結構重いから」
彼女を描いた十二号のキャンバス画。
「ホントだ。結構しますね」
「あそこにあるサイズだともっと重いし、そんな大きなパネル画をマンションからいちいちどこかの倉庫的な場所へと運ぶのも面倒だろ」



