「何だか、恥ずかしいですね」
「そうか?」
「はい。……でも、凄く嬉しいですし、幸せな夢を見てるんじゃないかと感じれるほどリアル感があるというか。私がそこにいるみたいです」
「いるよ」
「え?」
「絵って、本来そういうものだよ。描き手の命が吹き込まれるものだし、平面に描くけれど実際は平面図じゃないし」
「……そうですよね」
「嬉しい感想でよかった」
人物画は得意じゃない。
だけど、彼女を描くのは特別だから。
動物を描く時よりもずっと心が震えていたほど、描きたい意欲にのまれた作品。
いや、作品ではない。
恋人として垣間見れた幸せなひとときを描き出したものだから。
「茜」
「はい?」
「俺、教師を辞めようと思う」
「……え」
「父親のこともあってずっと現実から逃げてたんだ。だけど茜と再会して、ちゃんと人生と向き合いたいと思えるようになったし、しっかりと地に足をつけて生きようと思う」
「……はい」
「今はまだ、ちゃんとした言葉では言えないけど、茜とこれからの人生を歩みたいと思ってるから」
「っ……それって……」
「プレ的なやつ?」
「えぇっ……?」
言葉の意味を考えたら、それこそプロポーズととってもおかしくない。
だけど、手に付けた職を失う男と結婚して欲しいとは口が裂けても言えない。
「芦田という画材メーカー分かるか?」
「はい、知ってます。大手の画材メーカーですよね?絵の具とか扱ってる」
「ん。祖父の会社なんだ」
「ぇええっ?!」
「芦田は財団法人もあって、美術展や個展を開いたり、無名の芸術家をサポートして育てたりする育成プログラムとかもあって。本来ならば、母親が継ぐわけだったんだが、駆け出しの彫刻家だった父親と駆け落ちしてしまったんだ」



