美味しそうにフルーツトマトのカナッペを頬張り、指先についたオリーブオイルを拭こうとティッシュに手を伸ばす。
そんな彼女の手首を掴んで人差し指をパクっと口に含んだ。

「ちょっ……」

不意打ちの俺の行動に紅潮する彼女が可愛い。
見た目はモテ女子代表みたいな顔して男慣れしてるっぽい感じなのに、実際は全然すれてなくて反応が初心すぎる。

今まで何人くらいと付き合って来てたのだろうか?
キス自体は抵抗する感じでもないし、結構場数を踏んでる気もする。

過去に拘るつもりもないし、囚われることもないんだけど。
過去を知らずして幸せになれるだろうか。
知らないでいたら、この先何度となく同じ不安に襲われることとなるはず。

だったら今勇気を出して立ち向かうことで、ちゃんと全てを受け容れた上でこれからの俺らを築いていけたらいいんじゃないのだろうか?

缶ビールをプシュッと開け、それを彼女に手渡す。

「ありがとうございます」

自分の分も開けて、ゴクゴクッと喉を潤す。
緊張がピークに達して、異常に喉が渇くな。

三十五歳にして、人生と初めて向き合っている。
誰かと同じ時間を共有したいと思えなかった俺が、どんな些細なことでも共有したいとさえ思える女性が目の前にいる。

『生徒』だからと、何度となく見て見ぬふりして過ごした十年前。
『教え子』だからと、卒業と同時に消し去った胸の燻り。
同じ制服を着た生徒たちを見る度に幻影みたいに思い出し、その度に気の迷いだと言い聞かせた。

だがもう、そんな子供だましのような小賢しい真似はしないと心に誓った。
どんなに間抜け面になろうとも、彼女を想う気持ちに蓋はしない。

「茜って、今まで何人くらいと付き合ったの?」