「……ん」
「隆はずっと女性関係がだらしなくて、千奈が見限った感じだったんですけど、実は千奈の思い込みだったらしくて、今も千奈をずっと好きみたいです」
「すれ違ってしまったのか」
「……はい」
「それで?」
「千奈の結婚はもう決まってることですし」
「……ん」
「千奈に気持ちを伝えずに、このまま諦める……みたいです」
「……そうか。せめて、気持ちを伝えられたら、踏ん切りも付けやすいんだろうけどな」
「ですよね」
「ん」

溜息を零す彼女は、親友の気持ちも男友達の気持ちも見守るしかできないことがやりきれないのだろう。
俺だってあの時に、行動に移さなかったら今こうして会うこともなかった。

「萩原、いい人に出会えるといいな」
「はい」



一時間ほど車を走らせると急に車内が静かになった。
助手席に座る彼女は完全に眠気に負けたようで、こくりこくりと可愛く揺れ始めた。

サービスエリアに寄り、助手席のシートを静かに倒す。
こんな無防備な寝顔を渡瀬や萩原も知ってるんだろうな。

当たり前すぎることだが、その一つ一つに嫉妬せずにはいられない。
例えこの十年の間連絡を取っていたとしても、俺に向ける顔と親友たちに向ける顔は別だろう。

だからこそ余計にこの先の長い人生、何一つ見逃さないでいたい。

父親のように女には溺れまいとあんなにも心に誓ったけれど、彼女だけはその誓いですら破ってもいいとさえ思える。
それほどまでに、俺に勇気と愛を教えてくれた女性。
三十五年生きて来た人生ですら、一瞬で美麗な色に塗り替えてくれる存在だ。