「…私、ずっと松本さんのことが怖かった。」
松本さんは黙ったままだ。
真っ直ぐ私を見つめてくる目。
その目に負けないよう、私は思い切って言葉を続けた。
「でも、ちゃんと私のことを見てくれる人がいて、力になってくれるって分かったから、もう怖くない。」
本当は怖い。でも、もう大丈夫。
不器用でも、頑張っていれば、私を認めて、味方になってくれる人は必ずいる。
長谷川くんや、原口さん、山本さんみたいに――。
「たぶん松本さんは私のこと、これから先もずっと嫌いなんだと思う。でも…」
私はそこまで言うと、体の前で合わせていた掌をグッと握りってから言った。
「でも、それでいいよ。私も、松本さんのこと好きになれる自信はないし、普段から仲良くして、なんて言わない。でも明日の文化祭くらいは一緒に成功させたい。だから、文化祭が終わるまででいいから、私を嫌いって気持ちは我慢してもらいたいです。クラスみんなで頑張って準備したんだもん。松本さんも、頑張ってくれたんだから。みんなの頑張りを無駄にしたくない。」
私の話を聞いた松本さんの目のキツさが、少し和らいだ気がした。
そして。
「ごめん、黒田さん。許して…。」
松本さんの目から細く涙の跡が伸びた。
それを見た私は…
「いいよ。許すよ。」
と、それだけ言った。



