私は魔王!

「もう少しこっちへおいでよ、アビちゃん。」

「第3皇子、そんなにひっつくな。アビステイル殿が窮屈だろう。」

「じゃ、勇者くんが向かい側に座りなよ。三人並べばキツイに決まってるでしょ?空間認知能力無いの?」

「さっきからアビステイル殿に馴れ馴れしい。謁見の時に斬りかかってきたくせに。離れろ。」


ガダゴドガダゴドと馬車に揺られながら、こんな不毛なやり取りを頭の上でずっとされている。

(やだやだやだやだやだやだ。帰りたい帰りたい帰ります!!)

「ねぇねぇアビちゃん、結界は簡単に直せるものなの?」

「(さりげなく手に触るな!握るな!)問題ない。」

さっと絡められた手を引き抜き、前を向いたまま答える。

「これまでも結界の綻びは、アビステイル殿が一人で修繕してたのか?」

「(こっちも当然の如く私の手を自分の膝に置かせるな!指を絡ませるな!)大がかりなものはそうだ。」

「アビちゃんの魔力は無尽蔵みたいだし、流石だね。あ、さっきのクッキーの欠片が付いてるよ。」

そう言うとムスタスは、私の口の端に付いていたクッキーのカスを指で取り、自分の口に入れた。

出掛けにアランお手製のクッキーを一人で頬張ってきたのがバレた!くっ不覚……

「……アビちゃん、今のは赤面して照れるところだよ?ま、そんな鈍感なアビちゃんも好きだなぁ。」

「第3皇子、今すぐ降りろ。」

「あははは、それそっくり勇者くんに返すよ。」

馬車に乗ってからは、ずっとこんな調子でいい加減頭が痛くなってきた…

「魔王様、到着致しました。」

とある森の入り口。ここから先は人間国の領地だ。

御者がドアを開ける。
真っ先に私は飛び出した。

「こらこらアビちゃん。レディーは最後に降りるもんだよ?せっかくエスコートしようとしたのに。」

そんな事を言いながら、降りるときにさりげなく勇者の足を踏みやがったな第3皇子……

「魔王殿、何か……異様な気配がする。」

しれっと続けて降りてきた勇者。
セザキエルを無視する方向らしい。
ふむ、大人な対応だ。5点あげよう。

いかんいかん、真面目に仕事をせねばな。

「……こんなに瘴気が漂っているなんて…。おかしい。」

この国は土地柄か瘴気が発生する。
そんな中で、ずっと暮らしてきた魔族は瘴気に対し免疫がある。
魔獣なんかは、体内に瘴気を貯めていたりするが、こんなに濃度の高い瘴気は滅多にないし、さすがにこの中にずっと居ると気分が悪くなってくる。

ふと顔を上げると、キラキラとした細かい破片が空中に浮かんでいる。

(割れた結界の破片か…。取りあえず修復しなきゃ。)

手の平に魔力を集める。
細く細く…出来るだけ細く細やかにに魔力を練り上げる。
結界が割れた所の断面に、練り上げた魔力を塗っていく。
もう片方の手で、割れて粉々になった所を新しく作っていく。

「すごいな……。あんな魔力量をこんな繊細に扱えるだなんて。流石アビちゃん。」

「………」

塗った断面と、新しく作った面をくっつける。

『『強固に。強固に。我が国を守る為、綻びなきように。我が名に掛け、永久に。』』

結界は一瞬輝いてから、スウッと見えなくなる。

「終わったのアビちゃん。すごいね!」

「(結構しんどいんだよな、これ。早くベットで寝たい)終わりだ。帰還する。」

「魔王殿、まだうっすらと瘴気が残っている。あれは……」

突然勇者が走り出した。
すると茂みの中からなにやら抱えてきた。

「人間……の子?」

「そうらしい。ただ、かなり衰弱していてさらに悪いことに……」

「瘴気がまとわりついてるな…。取りあえず城に戻る。その子もだ。」

「そんな面倒な事しなくても、その子を森に置いとけば、同族がなんとかするんじゃないの?しかも人間だよ?アビちゃんが助ける意義ないんじゃないの?王様がそんな迂闊に行動しちゃダメだよ?」

「ムスタス、お前の国ではそうかもしれないが、私は助けられる命があれば、人間だろうが獣人だろうが助けようとする。しかもまだ子供だ。理解しろとは言わないが、私の行動は私が決める。」

勇者を見ると、小さく頷き馬車に子供を抱え乗り込む。

「……その甘さ、後で命取りにならなきゃいいけどね。」

続いてムスタスも馬車に乗り込んだ。勇者と子供の反対側に乗ったので、私は勇者の隣に座る。

ムスタスは不貞腐れたように、頬杖をつき窓の外を見ている。

やれやれ。