グラウンドの砂を蹴る音が耳に心地よい。
部活に励む生徒を横目に自転車をこぐ。
暑いのによくやるなと思いながら自転車を降りてちょうど休憩中の文哉に手を振った。
「おおー律 やっと陸上部入る気になったか?」
「そんなんじゃねえよ 何回目だよそれ」
文哉の言うことに適当に返してからまた自転車にまたがる。
背中に流れる汗が夏の始まりを感じさせる
こんな暑い日に自転車に乗るんじゃなかったと少し後悔した。

そういえば、あの人と出会ったのもこの季節だった。
あの頃の夏は今よりもまだ過ごしやすい気候だったよな
今はクーラーがないと生きていけないくらい暑いんだぜ。
今はもう会えないあの人に心の中で話しかける。
あの人ならきっとぱっちりした目を細めてくすくすと笑うだろう。
あの日、何もかもいやになって全てを投げ出そうとしたあの時、優しく、でもしっかりと俺を引っ張り上げてくれた。
それなのに俺はその優しさに甘えてあの人が抱えているものに気付いてあげる事が出来なかった。