蝉の鳴き声が、校舎の中にまで響き渡っている。

 いつもなら、聞くだけで暑いと思うその声。でも、今は全く届かない。

 私は、今から行うことについてのシュミレーションを、ただ1人で誰もいない階段で行っていた。

 傍から見れば、絶対頭がおかしいと思われる行動だが、別に人気(ひとけ)が無いんだからいいだろう。

 今日こそは、彼に好きだと伝えるんだ、と。顔を見て、目を合わせて、少し頬を赤らめながら、でもはっきりと伝えるんだ、と。
 私はそのためのシュミレーションを、後にやらかすなんて思いもせずに行っていた。
 


 人がほとんど通らないような、南校舎4階の階段の踊り場に、ずっと想いを寄せている人を呼び出した。約束の時間まで待ちながら、緊張して震える手を摩った。

 時間になり、ちょうど来てくれた彼の前に立つが、顔は緊張して見れそうに無いので少し俯く。
 ……失敗その1。

 目をギュッと閉じて、さっき行ったシュミレーションを思い出しながら、私は震える声を出した。
 ……失敗その2。


「わ、わたし。あなたのことがっ」


 手に汗が滲んだ。その手を握って、なんとか声を絞り出す。


「ずっと前から、嫌いでしたっ」