オリアーナはまもなく、神殿へ出向いた。聖女としての資質を確かめるために人知れず洗礼の儀を受けた。魔法を扱えないオリアーナは、与えられた試験を通過することができず失敗。しかし、洗礼の儀を受けた直後から、精霊が見えるように。

「これもまた神の采配でしょう。あなたには、魔力核を取り戻してからもう一度洗礼の儀を受けていただきます」
「はい。分かりました」
「健闘を祈っておりますよ」

 気のいい神官に励まされ、オリアーナは自分を鼓舞した。

 新たな聖女候補の誕生の発表は、オリアーナが非魔力者であることを考慮して先延ばしにされた。だから、オリアーナが次期聖女ということは、魔法学院の教員と、神殿の限られた者しか知らない。両親さえも知らない。

 神官と別れ、荘厳豪華な回廊を歩いていると、とある人物に遭遇した。

「オリアーナ……」

 目の前にいたのは、レックスだった。
 オリアーナは今日、洗礼の儀を受けるために聖女の仮の装いをしている。

「ご無沙汰ですね。レックス様」
「その格好、修道女にでもなるつもりか?」
「……まぁ、そんなところかな」

 聖女候補ということが知られても面倒なので、適当に受け流す。

「はっ、滑稽だな。僕に捨てられて他に嫁の貰い手もおらず、家族にも愛想を尽かされたのか」
「……ええ。まぁ」

 こちらに近づいてきて、蔑むような眼差しを向けてくるレックス。昔から彼には、始祖五家の出来損ないだと馬鹿にされている。彼は侯爵家出身で、格上の始祖五家に劣等感があるから、よりオリアーナに冷たく当たるのだ。――その血筋への嫉妬から。