「無事に帰って来てね。……怪我だけはしないように」

 彼女の手は温かくて力強い。心配してくれるのは、いつだってオリアーナだけだ。レイモンドには、彼女しかいない。

「はい。頑張ってきます」
「行ってらっしゃい」

 オリアーナは、レイモンドの憧れの存在だった。勉強も運動も、何をやらせても彼女が上。魔力の素質がないこと以外、レイモンドは彼女に勝ったことはない。レイモンドは、姉に追いつきたくて一心に励んできた。まっすぐで崇高な心を持つオリアーナが誇りだった。

(どうして神は、僕にだけ力をお与えになったのでしょう。僕よりも姉さんの方が、力を持つにふさわしいのに)

 たとえ始祖五家の血筋であっても、魔法士以外は平凡な人生を歩む。オリアーナも将来は貴族の家の子息と結婚して、表舞台には出ずに生きていくのだろう。なかなか婚約相手は見つかっていないのだが。