「大丈夫。姉さんに任せて。レイモンドは何も心配せずに静養していたらいい」
「姉さん……」

 今ひとつ納得していないレイモンド。
 気まずくなって目線を逸らすと、寝台近くのチェストの花瓶に薔薇が生けてあった。水に濡れたみずみずしい花弁が、質素な部屋を華やかにしてくれている。

 更に、テーブルの上の包みに目が留まった。

「これは?」
「魔法学院から制服が届いたんです」
「……そう」

 開封済みの亜麻色の紙の包装の中に、魔法学院の制服が収められていた。黒のブレザーに同色の細身のスラックス。白いシャツと紫のベスト。――それから、胸に付ける校章が付属している。

(この制服を、私が着るのか)

 ブレザーをそっと手に取り、眉をひそめた。

 魔法学院は、ヴィルベル王国最難関といわれる名門魔法教育機関で、十六歳から十九歳までの生徒たちが通う。レイモンドは首席で合格し、この制服も本来は彼が着るためのものだった。しかし――。

 春から学院に通うのは、レイモンドではなく――非魔力者のオリアーナだ。そしてそれは、病に伏せった彼の身代わりとして……。