これは、レイモンドがまだ9歳だったころのこと。
 レイモンド・アーネルは、いわゆる『天才』と呼ばれる存在だった。この国を建国した始祖五家のひとつで、光魔法を得意とするアーネル公爵家の子息であり、それにふさわしい才能に恵まれた。

「僕が……前線に?」
「ああ、そうだ。ここで功績を立てれば、我が家の株が上がる。頼んだぞ」
「……分かりました。すぐに参ります。父さん」

 アーネル公爵家が治める公国であるとき、魔物が出没した。魔物の出没は珍しいことではなく、各地の魔法士団がその都度対応するのだが、今回の敵は厄介で苦戦しているという。魔物は下級・中級・上級・超上級の四段階にランク分けされており、今回は上級が数体、街の近くで暴れていた。

 戦闘用に身支度を整え、長い髪を邪魔にならないように頭の高いところで束ねる。

「討伐に参加するの? レイモンド」
「――姉さん」

 支度を終え、屋敷のエントランスに出ると、オリアーナが追いかけて来た。

「はい。領民を守ることが僕の務めですから」
「……そう」

 十歳にも満たない子どもが討伐に参加するなど、普通であれば前代未聞だ。だからこそ両親は、その前例を息子に作らせたいのだろう。オリアーナは心配そうに眉をひそめて、レイモンドの両手を握った。