(笑わせないで。……私が身代わりになったって、レイモンドが喜ぶはずない)

 婚約破棄の罰と称して両親に折檻された身体の傷が、ずきずきと疼く。ここで断ったとしても、オリアーナが頷くまで彼らは何をしてくるか分からない。どの道、選択肢はないのだ。

 オリアーナは、テーブルの上のペンダントを首にかけて頷く。

「分かりました。私がレイモンドを演じます」



 ◇◇◇



「両親の頼みを聞く必要なんてありません! 身代わりなんて、そんな無茶な……。不正が明るみになれば、姉さんまで咎められることになるんですよ。父さんたちは何を考えてるんだか……」

 夕食のあと、レイモンドの部屋を訪れる。案の定彼は、替え玉入学に猛反対した。

 金髪金眼の儚げな美貌の青年は、双子の弟のレイモンドだ。男女の双子なのに、鏡を映し合わせたように似ている。

 大雑把で男らしいオリアーナに対し、レイモンドは慎重派で繊細だった。見た目は瓜二つなのに、まとう雰囲気は違う。

「姉さんに迷惑をかける訳には……ゲホッゴホッ」
「落ち着いて、レイモンド。身体に障る」

 苦しそうに咳き込むレイモンドの背中を擦る。寝台の横に椅子を置いて、腰を下ろした。

「そうやって両親の言いなりになって、姉さんの人生はそれで……いいんですか」
「…………」

 今までもずっと、両親の言いなりになって生きてきた。いつも周りの顔色を窺って。有能な弟と比べられ続けてひどいことを言われても耐えてきた。
 体が弱いレイモンドを両親の元に置いて自分だけ逃げることが、オリアーナにはできなかったのだ。可愛い弟を守りたいから、家を追い出されないように両親の顔色を窺ってきた。