「本当にリヒャルドとは何もないんだな」
「何度も言ってるでしょ。セナの誤解だって」
「……ごめん」

 ようやく誤解が解けたところで、中間テスト最終日の会場に向かった。四日目と同様に鍛錬室で行われる。部屋の中央の机に、大ぶりの球体が置かれている。

「今から……あの中に入るんだよね? 僕たち」
「そうだよ。あの石は魔法石だ。中は魔法で作られた異空間になってる」
「へぇ。凄いな……異空間か」

 すでにテストは開始しており、前の受験者が石の中から戻ってくる。赤い炎とともに現れたのはジュリエットと、そのペアの男子生徒だった。
 ジュリエットは涼し気な表情をしているが、男子生徒の方は息を切らし、疲弊しきっている様子。

「ラクショーでしたわ!」

 ジュリエットはぐっと親指を立てて、こちらに目配せした。一方、もう一人の男子生徒は、「もう二度と始祖五家のペアは御免だ」とぶつぶつ呟きながら壇上から降りた。その足取りは覚束ない。一体中で何があったのだろうか。おおよそ、ジュリエットが無茶な戦い方をしたのだろうが。

(まぁ……ジュリエットは頭で考えない直感型だし、荒い戦い方をするからな……ご愁傷さま)

 疲弊しきった男子生徒の後姿に、オリアーナは内心でエールを送った。

「レイモンド。――次は俺らの番」
「うん」

 セナに促され、大きな魔法石の前まで歩く。試験官のエトヴィンが相変わらずの仏頂面で言った。

「学籍番号と名前の確認をする。――右」
「はい。学籍番号10273のレイモンド・アーネルです」
「10165、セナ・ティレスタムです」
「よし。その石に手をかざせ」

 オリアーナとセナは頷き、手をかざした。


 《――発動(ムーブ)