すると、リヒャルドがずいと距離を詰め寄り、額に手を当ててきた。

「熱、あんじゃねーのか? 体調悪くて本領発揮できなかったんだろ? んー……一応平熱みたいだが……」

 至近距離で顔を覗かれて、オリアーナは頬を赤くして、僅かにたじろぐ。

(……近すぎる)

 オリアーナにだって、年頃の娘らしい恥じらいはある。

「……お前、何赤くなってんだ?」

 きょとんとした様子で首を傾げる彼。リヒャルドも自分が馴れ馴れしく触れている相手が、まさか女だとは夢にも思っていないだろう。

 すると、顔を赤くしているオリアーナの姿にセナが気づいた。彼はさりげなくリヒャルドを引き剥がし、まるでライバルを見るように冷たい眼差しで彼を見据えた。

「君にはパーソナルスペースってもんがないの? レイモンドが困ってる」
「は? なんでそんな気ぃ遣わなきゃならねーんだよ。女子かっつーの。レイモンド、そんな繊細な男だったか?」

 ……女子なのだ。一応は。
 すると更に、ジュリエットが微笑みながら言った。

「あらあら、青春ですこと。これが世に言う三角関係というやつですわね!」
「何言ってんだジュリエット嬢。全然そんなんじゃねーし」
「まぁ。では以前レイモンド様を押し倒して身を絡ませ合い、胸を揉みしだいていらっしゃった件についてはどう言い訳なさるおつもりですの」
「言い方言い方! あれは事故――ってセナがやべえ顔してるぞ……お、おい、なんで戦闘準備なんか始めて……!?」

 ジュリエットが言っているのは、体育の授業のときのことだ。セナも見ていたはずだが、ジュリエットの言い方が悪いせいで誤解しているみたいだ。

 怒り心頭で魔法を発動させるセナ。
 赤くなり俯くオリアーナ。
 笑いながら騒ぎを煽るジュリエット。

 リヒャルドがこの修羅場を収めるまで、相当な時間と労力を要したことは言うまでもない。